「大長編ドラえもんとは「冒険」と「SF」と「友情」である」映画ドラえもん のび太の絵世界物語 ハラコウサクさんの映画レビュー(感想・評価)
大長編ドラえもんとは「冒険」と「SF」と「友情」である
6年前、『のび太の月面探査記』の脚本を担当した作家・辻村美月氏が、執筆にあたり「藤子先生ならどうするかはわからないが、藤子先生が絶対にしないことはわかる」と語っていたのをおぼえている。
今作の演出・脚本も、そのモットーに基づいて作られたかのように、藤子先生のエッセンスと、藤子先生への尊敬が強く感じられる、素晴らしい作品になっていた。そこかしこで「最高傑作」と評されているのは、決して誇張表現ではない。
藤子・F・不二雄作品らしさというものを、ここ数年の映画ドラには感じないことが多かった。
『STAND BY ME』から始まった“ドラ泣き”という言葉に呪われ続けているかのような、のっぺりした感動要素。メッセージ性を無理やり捻じ込んだせいで、ドラえもんを教育アニメにしようとたくらむ大人の顔がうっすら見えてくる、くどすぎる説教臭さ。物語のつじつまを合わせるためのツールとしか見ていないような、ゲストキャラクターの雑な扱い。
どの作品が、と名指しはしないものの、毎年優秀な興行成績を収めることに胡坐をかき、大長編ドラえもんに大事なものが抜け落ちていることが多かったと感じるのだ。
たしかに、ドラえもんは我々大人のものではない。子どもたちがどんなドラえもんを求めているかが最も大事だ。それでも、我々が子どものころ夢中になったドラえもんには、安い感動も、説教臭さも、雑な演出もなかったはずだ。
自分ものび太たちと一緒に行動しているかのような臨場感と、想像力を掻き立てるような胸躍る大冒険。藤子先生の膨大な知識量と科学的知見から生まれるSF要素。新世界で出会った仲間たちと育む、どんなに凶悪な敵にも負けない強い強い友情。そういったものが大長編ドラえもんには必要だ。
『絵世界物語』には、そのすべてがあった。
企画段階で「ドラえもん愛」と「王道」がテーマに上がっていたという。そのテーマにたがわず、強烈な愛とリスペクトを許容量いっぱいに流し込まれた感覚だ。
2019年『月面探査記』は6週連続興行収入ランキング1位という記録を打ち立てた。監督を務めた八鍬新之介氏の確かな手腕と辻村氏の緻密な脚本により、ドラえもん史に残る名作になったと言えるだろう。
そしてこれを執筆している3月31日現在『絵世界物語』は4週連続1位と好調をキープしている。
私は30日の日曜日に3回目を済ませてきた。大きめのシネコンだが、ほぼ満員の客入りだった。家族連れだけでなく、カップルや老夫婦、ソロ客まで見えた。幅広い年代に愛されてきたドラえもんが、新たな金字塔を打ち立てる日も近そうだ。
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