「手放しに褒める事は出来ないものの良作」映画ドラえもん のび太の絵世界物語 フレンチクローラーさんの映画レビュー(感想・評価)
手放しに褒める事は出来ないものの良作
ファミリー映画として良作という評価には頷ける、という感じです
ただ最初に指摘しておきたいのは、本作のプロットがいささか強度に欠けるという点です
良かった点は
・逆算的に配置された伏線が生み出す気持ち良さ
・伏線と同様に「要所で活躍するひみつ道具を事前にチョイ役で登場させる」といった丁寧な布石作り
・説明的な場面でもキャラクターを動かし、子供を飽きさせない工夫(テーブルを滑る蝙蝠など)
・バトルシーンを筆頭に、作画全般の質の高さ。今作のコンセプトを直感的に伝えるオープニングアニメーション
・中世ヨーロッパの忠実な時代考証をエンターテイメントに組み込めている点
・ゲストヒロインをお姫様扱いしないギャグ演出の数々
・「絵は真心」というメッセージを中心にしたのび太の心境変化
微妙な点は
・メインプロットがやや弱い
・演出意図に対して話のスケールか小さい・連続性が弱い
この作品のプロットにおける主要な展開には、①王女との出会い(アートリアの発見)、②ジャイアンとスネ夫の救出、③アート泥棒の発見と逮捕、の3つが存在し、サブ目的として「アートリア・ブルーの発見」が据えられています。しかし王女の帰還は物語の冒頭で自然に解決され、ドラマとしての大きな山場には至りません。後半のクライマックスとなるドラゴンとの戦いは、あくまで泥棒の引き起こした偶発的な災厄の後始末です。物語が進行ポイントは主に②であり、画面の動きやギミックで観客を飽きさせない一方で、全体としてはストーリーの推進力に欠けた印象を受けます。サブプロットのアートリア・ブルーの発見の主体はジャイアン・スネ夫であり、ドラ・のび視点だとあくまで副次的です
(暗黒騎士とドラゴンは、やがて火山灰に埋もれ、歴史から忘却されるアートリアの運命を象徴する存在だと思わます。色と無色の対比など、そこに込められたテーマ性を察する事は出来るのですが、アートリアの運命自体は克服不可能(歴史改変に該当するため)という制約のため、その打倒が大きな達成感に結び付くわけではありません)
アートリアでの冒険も限られた範囲に留まり、作中のささやかな目的設定と演出意図の齟齬を感じます。基本に忠実なシーン配置でファミリー映画としては十分楽しめる一方で、物語全体の構造がより練り込まれていれば、その魅力がより一層引き出されただろうと思いました。ドラ映画の今後に期待しています!