「芸術×冒険!『のび太の絵世界物語』が描く新たなドラえもん映画」映画ドラえもん のび太の絵世界物語 Dolionさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0芸術×冒険!『のび太の絵世界物語』が描く新たなドラえもん映画

2025年3月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

興奮

幸せ

※ネタバレ無しとしていますが、予告映像で匂わせている範囲のネタバレを含みます。

【総評】
ここ数年の映画ドラえもんのオリジナル回の安定感は、本当に素晴らしい。

アニメーションや音楽のクオリティは言うまでもなく、脚本もドラえもんという作品の世界観をしっかりと捉えており、特に舞台設定への理解が成熟していると感じられる内容だった。昨年の「音楽」に続き、今回は「絵画」という芸術分野がテーマとなっており、原作に土台となるエピソードが少なかったにもかかわらず、細かい原作設定や現代的な視点を巧みに取り入れることで、バランスの取れた作品として見事に成立している。

監督は2011年の『新・鉄人兵団』、2013年の『ひみつ道具博物館』を担当した、寺本幸代氏で、感情表現を丁寧に描くことに定評があるとのことで、後述してますが、今作でも存分にその手腕を発揮されていたと感じた。

【脚本】
非日常への導入のキーとなる今作オリジナルのひみつ道具「はいりこみライト」。これを使った、非日常=舞台となるアートリア公国への導線の巧みさに驚かされた。
予告映像にもあった通り、のび太の頭上に突然穴が開き、木の板に描かれた絵が降ってくるという不可思議な現象から導線が始まるのだが、しっかりとドラえもんの世界観に基づいた説明が後からされるので安心してほしい。

また、これはドラえもんに限らず最近の作品全般に言えることかもしれないが、序盤の何気ない出来事を、終盤に重要な伏線として回収する手法がますます増えているように感じた。毎年ある程度は予想しながら観ているものの、今年も「そんなところを拾うの!?」と驚かされる見事な伏線回収があり、楽しませてもらった。予想がつかない綺麗な伏線回収は大好物なので、今後もぜひ続けてほしい要素だ。

【演出】
キャラクターの感情表現がとにかく秀逸で、細かく練られているのを感じた。個人的には、公式で推されているマイロよりも、お転婆姫・クレアの方に注目したい。

クレアのコミカルな表現がとにかく可愛らしく、顔芸やハプニングなど楽しい演出が満載だったのはもちろんだが、彼女自身に幼さや年相応の負の側面がほとんど見られなかったのが印象的だった。4年間も絵の中に閉じ込められ、さらには悪夢のような予知夢を見ていたにもかかわらず、終始ポジティブな少女像のまま。この点に、どこかご都合主義的な"物わかりの良さ"を感じていたのだが、まさか最後にしっかり回収されるとは。

もう1点挙げておきたいのが、ラストバトルの絶望感だ。ネタバレになるので詳しくは書けないが、伝説の悪魔として登場した暗黒騎士イゼールは、ドラえもん映画史上最強クラスのラスボスで間違いない。描き方や時間の割き方も素晴らしく、ラストバトルのみにフォーカスしたランキングを作れば、間違いなく上位に食い込む出来栄えだったと思う。

また、盤外ネタとして気になった点を2つ挙げておきたい。

・のび太のパパが絵について語るシーン
原作では、のび太のパパは元々画家志望で、実際に絵の才能があったことが語られている。そんなパパが、絵をうまく描けないのび太にかけたアドバイスが、アートリア公国宮廷画家の息子・マイロの意見と一致していたのだ。
「大好きな友達とか、大好きな家族とか、大好きだーって思って描いてごらんよ」
これはCMでも何度も流れていて、公式に強く推されているセリフだが、時代を超えて絵の天才同士が発するメッセージとして心に響くものがあった。また、さりげなく原作設定を活かしている点も、ファンには嬉しいポイントだ。

・タイムボートの登場
昨年Netflixでアニメ化された『T・Pぼん』のタイムボートが、早くもドラえもん本編に逆輸入されていた。これもファンには嬉しいサプライズだった。

【ゲストキャラクター】
メインのゲストキャラクターであるクレア、マイロ、チャイは、それぞれの持ち味を存分に発揮し、バランス良く描かれていた。上でも触れているが、マイロの絵に関するアドバイス、本当に心に響く素晴らしい演技だった。マイロ役に種崎敦美さんを起用したことには心からの賞賛を送りたい。彼女の演技力がキャラクターの魅力を最大限に引き出していた。ネタバレになるため細かい点には触れられないのがもどかしいが、彼の物語における存在感は特筆すべきものだった。

また、ラスボス枠として登場する悪魔イゼールも印象的だった。最終的にドラゴンの姿へと変貌するが、そのデザインがまた素晴らしい。過去のドラえもん映画に登場したフェニキアやマフーガのような「かっこいいドラゴン」とは異なり、クトゥルフ神話に登場しそうな、醜悪でおぞましい造形が採用されている。このデザインが悪魔らしさと恐怖を引き立て、実際にその見た目に違わぬ圧倒的な強さも描かれており、大満足の仕上がりだった。

【ゲスト声優】
今年も数名の芸能人が声優として参加していたが、特筆すべきはパル役の鈴鹿央士氏のみ。残念ながら、彼だけ演技が拙く、浮いてしまっていた。しかも、そこそこ出番の多い重要な役だったため、余計に気になってしまったのが惜しいポイントだ。

もう一点触れておきたいのが、サンドウィッチマンの伊達さん。インタビュー記事で以下のように発言しており、とても共感した。
「とにかく観ている人にサンドウィッチマンの伊達の声だと気付かれないようにがんばりました。(中略)我々がどこに出ているかは探さなくていいです!作品世界に入り込んで楽しんでもらえたらと思います。」
ドラえもんという作品と、声優という職業、両方へのリスペクトが強く感じられて素晴らしい。相変わらず、好感度の上がる発言しかしないなこの人。

【その他】
近年の映画ドラえもんについて。

ここ数年、オリジナル回が続いているものの、及第点以上のクオリティを連発している。水田わさび版ドラえもん(わさドラ)に交代してから、早くも20作品目となるが、ここにきて映画ドラえもんは完全に大安定期を迎えたと確信できた。
ノウハウが蓄積されていることはもちろんだが、監督や脚本が毎年交代しているにもかかわらず、このクオリティを維持し続けているのは本当にすごいことだと思う。

また、個人的に嬉しいポイントとして、最近はしっかりとしたバトルシーンが用意されている点が挙げておきたい。初期のわさドラ映画では、本来見せ場となるはずのバトルシーンに緊張感が欠けたり、恐怖を煽る迫力ある演出が控えめになっていた。しかし近年は、そうした要素がしっかりと描かれるようになり、映画ドラえもんの醍醐味のひとつである“普段はできないバトルシーン”が、パワーアップして復活してくれたのは本当に嬉しい限りだ。

【採点】
昨年と同じ4.0としたが、個人的な評価としては前作『地球交響曲』よりも少し下というイメージ。中弛みはあったものの、「音楽」を主題に正面から向き合った新しいアプローチや、秀逸な伏線回収、ラストバトル時の演出などを鑑みると、ギリギリ『地球交響曲』>『絵世界物語』といった印象だ。

ただ、前作は人を選ぶ作品だったこともあり、ぶっちゃけ今作の方が一般受けするのではないかとも思っている。どちらにせよ、高品質な映画ドラえもんのオリジナル回であることは疑いようがないので、ぜひ劇場に足を運んで観てほしい作品だ。

Dolion
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