劇場公開日 2025年2月21日

「この映画を自分の眼で観てほしい」ノー・アザー・ランド 故郷は他にない オパーリンブルーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0この映画を自分の眼で観てほしい

2025年3月11日
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鑑賞方法:映画館

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ヨルダン川西岸のパレスチナ人の居住地区のひとつ“マサーフェル・ヤッタ”が、イスラエルの一方的な理由で破壊され、それに抗議する住人の姿を追ったドキュメンタリー。ここで生まれ育った青年バーセルと、イスラエル人ジャーナリストの青年ユバルがフィルムにおさめる

まずここはガザ地区ではく、ヨルダン川西岸であること。ニュースで取り上げられる紛争地域でなくても、こんなことが発生しているのだ

荒れ地に、所々コンクリートで家が建つ素朴な村。この一帯をイスラエル軍が訓練施設にすると一方的に決め、隊列を組んで現れて、行政の命令と称する紙を見せて、個人の家や共同の井戸、水道施設を破壊していく。家財道具を持ち出す僅かな猶予は与えるが、予告無しに現れるので、最低限の家財を家の外に出すだけで、もちろん転居先の当てなど無い
砂漠のような荒れ地の貴重な井戸にも、情け容赦無くコンクリートが注がれる
壊された家に残っていた大工道具を没収されそうになって、抗議の声を上げた青年は発砲され、命は助かるものの、首から下が麻痺してしまう

もちろん住人は抗議のシュプレヒコールをあげ、横断幕と共にデモを行なうが、正規軍として武器を持つ者の圧倒的な力には敵わない
家を破壊された住人は洞窟で暮らすか、野宿、もしくは市街地への町暮らしを選ぶより他はない

映画は手ブレばかりで疲れるかなと危惧していたが、スマホやパナソニックのハンディビデオで録画する二人を捉える、第三者の目線からの映像もあって、現場を多角的にとらえている
時間の流れや、映像の前後の説明は無いが、不親切感は感じない

パレスチナ人の居住する地域を減らして、都市部に集約する為らしいが、村の家の破壊を命じるイスラエル人や軍人は血も涙もなく、力をもって一方的に命令を下す

権利が保証されている近代国家では考えられない行政の暴挙であり、ガザ地区においてハマスがイスラエルに一矢報いようと企図することで始まった、今回の混乱の遠因を見ることが出来るのである

まずは自分の眼でこの映像を見て、自分の頭でこの映像の意味するものを考えて欲しいと思った

【蛇足】
①バーセルとユバルの顔が似ていて、最後の方まであまり識別出来てなかったように思う
②パレスチナの人々の中にジャーナリストを名乗るとは言えイスラエルの青年がやって来て、拒否されるかと思ったら、そこは寛容に受け入れてくれて、二人の間には絆も生まれるのである。そこに、ささやかながら解決の糸口があるように思えた…そう簡単ではないのは1年以上続いた戦闘状態を見ていればわかるけれど

オパーリンブルー