「鬼畜の所業」ノー・アザー・ランド 故郷は他にない TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
鬼畜の所業
第95回『ナワリヌイ』、第96回『実録 マリウポリの20日間』と、最近は国際的な政治問題が題材となる作品が受賞する傾向が見えるアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞。今年で言えばやはり本作『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』が、前哨戦の実績から言っても有力と思われますが結果は如何に?
そもそも、アメリカの映画産業はユダヤ系の人材と資本があってこそ発展してきたこともありますが、今回(第97回)のアカデミー賞ノミネート作品をみていくと『ブルータリスト』『セプテンバー5』『リアル・ペイン 心の旅』など、映画の題材にユダヤが関連する作品が並ぶ中、断然に目立っている本作の行方が「特に」気になります。
2023年10月から続く「ガザ情勢」をきっかけに、改めて「パレスチナ問題」を振り返って理解しようとする機会も増えましたが、やはりネックとなるのはその複雑さ。と、ここで諦めては同じことの繰り返しですし、見方を変えればむしろ誰にも判る単純な「人道的な問題」については、例えどんな立ち位置にいても無視してはいけない事実です。
今作はまだまだ情勢の悪化の懸念が消えない「ガザ地区」ではなく、もう一方のパレスチナ自治区である「ヨルダン川西岸地区」が舞台。1947年の国連分割決議以降もイスラエルからの入植活動が続き、実質的な面積はどんどんと小さくなっています。本作はそんな過酷で不条理な現状を身を挺して映像に残し、世界へ発信し続けるパレスチナ人青年バーセルとユダヤ人青年ユバル等の活動を見せるドキュメンタリー。
ある日突然、パレスチナ人が居住する村に現れるイスラエル軍と役人。女性や子供の前でも躊躇することなく銃を向け、100年以上前からそこで生活してきた人々の家を重機で壊し、更には自動車や資産を奪っていきます。そして、その様子をカメラに収め取材し続けるバーセル達に対し、銃を向けながら「敵」と叫んで追いかけまわす過激な入植者達(おそらく一般人)も加わる様子は、言葉を選ばずに言えば実に「鬼畜の所業」。冷静に見続けることが辛くなるほど怒りが込み上げる95分は正直しんどいですが、命を張って訴える彼らから目を逸らすわけにはいきません。
果たして、アカデミー会員たちはこれをどう観て評価するのか、正に賞の真価が問われる一本。ある意味、トランプの迷惑な「思いつき政策」よりよっぽど影響があるのでは?と期待しつつ、授賞式に注目です。