「テレビや新聞では報道されない、パレスチナでのイスラエルのダークサイド」ノー・アザー・ランド 故郷は他にない ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
テレビや新聞では報道されない、パレスチナでのイスラエルのダークサイド
パレスチナ人の『バーセル・アドラー』は
自分の生まれ育った土地「マサーフェル・ヤッタ」に侵攻するイスラエル軍を
幼い頃から映像で世界に発信してきた。
しかし、自分の行いは認識されているのか、
または世論を動かすことができるのかを常に自問している。
イスラエル人ジャーナリストの『ユバル・アブラハーム』は
彼の行動に共感、二人はタッグを組み撮影を続ける。
しかし『ユバル』にしても、
パレスチナ人からは最初猜疑の目で見られ
心無い言葉をぶつけられ、
イスラエル人からは売国奴と非難をあびる。
そうした二人の葛藤を、正面から見据えるのが本作、
95分尺{ドキュメンタリー}の特徴の一つ。
とは言え、
やはり主軸となるのは、イスラエル軍とイスラエル人入植者の非道な行い。
「ジュネーヴ第四条約第49条」で
自国市民を占領地域に移住させることは禁止されているようだが、
イスラエルは国際法などお構いなし。
パレスチナの領土に対しイスラエルの法を持ち出し、
武力をちらつかせながら強固な態度で臨む。
演習場にするとの名目で、
個人の住宅はおろか学校に至るまで重機で破壊し更地にしていく。
しかし実際には、軍に随伴している入植者たちが、
自分たちの家を建てるのだろう。
こうした強権の発動は、現首相の『ベンヤミン・ネタニヤフ』が
政権を掌握した2009年よりとりわけ顕著になってきたよう。
言葉で抵抗するパレスチナ住民に向かって、
逮捕や時として発砲で威圧する。
映像は、そうした理不尽な顛末を余すところなく
眼前に晒す。
パレスチナの問題はニュースや新聞で
概略を理解した気になっていた。
とりわけ、直近の「ガザ侵攻」は
メディアで取り上げられない日はないほどの報道密度。
が、本作を観てしまうと、
それでもまだまだ甘かったと、
慙愧の念に苛まれる。
そこに先住している人々を
理解不能な理由を付けて追い出す、
或いは住めない状態にすることを、
後から来た者が平気で推し進めることの理不尽さ。
勿論、ミサイル一発の恐怖はありつつ、
真綿で首を締めるようにじわじわと攻めることも恐ろしい。
その怨嗟の声は、
手をこまねいている国際社会にも向けられている。
一般的に{ドキュメンタリー}と言うと、
回り出した瞬間から、
被写体はカメラを意識し、
撮影者の主観も入るのでは?
本当の素の状態を捉えるのは難しいのでは?と
常々思うところ。
しかし今回我々がスクリーンで目にするのは、
あまりに容赦のない行いの数々。
わけてもイスラエル軍は、
そうしたことなどお構いなしに冷徹な顔を見せつける。