劇場公開日 2024年12月13日

「それが必要なかったからでは?」お坊さまと鉄砲 La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)

それが必要なかったからでは?

2025年1月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 国内総生産(GDP)ではなく、国民総幸福量(GNH)の向上を目指すブータンは、長年山の王国でした。しかし、2006年に国王が自主的に退位し、国の歴史上初の選挙が行われる事になりました。しかし、民主主義とか選挙の意味も分からぬ村の人は戸惑うばかりです。そうした村の混乱を縦糸に、高僧が「銃を手に入れろ」と弟子に命じた謎を横糸に描いた軽やかな物語です。

 村での選挙人登録が一向に進まない状況に苛立ったお役人の女性は、「世界中の人々が命懸けで望んだ物を与えられたのよ」と説明するのですが、村人は「私たちが命を懸けなかったのはそれが必要なかったからでは?」と応じます。それは寓話的な皮肉なのだろうと思ってニヤニヤ笑って観ていたのですが、「当選を目指さぬ選挙」が横行し、「SNSアクセス数を目的とした様な立候補」「デマに踊らされる選挙民」が現われた東アジアの後進国の現状を見ると、「これはメタファーなどではないんだな。選挙権って何だ?」と苦いものが胸元にせり上がって来たのでした。

La Strada