劇場公開日 2024年12月13日

「このゆったりと広がる豊かな物語には悪意の入り込む隙など微塵もない」お坊さまと鉄砲 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0このゆったりと広がる豊かな物語には悪意の入り込む隙など微塵もない

2024年12月31日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

『ブータン 山の教室』のドルジ監督による新作は、ブータンがさらされた時代の波と、そこで起こる人間模様をユーモラスな視座とゆったりした時間感覚で描き出す秀作だ。06年、尊敬を集める国王が退位を決め、いよいよ民主主義が導入されるという。その折に生じる国民の戸惑いは微笑ましくも至極もっともなことであり、本作を見ているとむしろ観客側の私たちの方こそ、よりもっと民主主義や選挙制度について思考を巡らすべきなのではないかと思えてくる。ただし本作の焦点は小難しい議論にあるのではない。あくまでそれを受け止める人間の心にある。そしてこの美しく平和な大地に銃を担いだお坊さまがたたずむ姿には、何か正反対の価値概念が同居しているかのような芸術的なまでの絵力が迸る。高僧の狙いが判明するラストは誰もが「なるほど!」と得心するはず。この国の善意と人々の思いやりがずっと続きますように。そう願わずにいられなくなる一作である。

コメントする
牛津厚信