劇場公開日 2024年12月13日

「物騒な仏僧と、幸せの赤い“銃”」お坊さまと鉄砲 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0物騒な仏僧と、幸せの赤い“銃”

2024年12月26日
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鑑賞方法:試写会

楽しい

知的

幸せ

パオ・チョニン・ドルジ監督・脚本の第2作となるこの「お坊さまと鉄砲」がとても良くて、デビュー作「ブータン 山の教室」も最近配信で観たのだが、両作品とも自然と宗教(祈り)にとても近い暮らしをいとなむブータンの村人たち(演者の多くは地元のエキストラ)が本当に素敵で、親しみと憧れの気持ちを抱いた人も多いはず。前作は比較的シンプルなストーリーだったが、今作ではちょっとしたミステリー要素も添えて観客を楽しませてくれる。

2006年に国王が退位し、民主主義と普通選挙が導入されることが決まったブータンで、国民に慣れてもらうため模擬選挙が各地で実施されることに。それをラジオニュースで知ったラマ(高僧)が弟子の若い僧侶タシに、4日後の満月までに銃を2丁入手するよう頼む。人々の平安を祈り皆から尊敬されるラマがなぜ銃を? その謎はなかなか明かされない。

師の頼みに従い村中を探し回るタシ、はるばるアメリカからやってきた銃コレクター、ある村人の家にあった南北戦争時代の稀少なライフル、さらには劇中のテレビ画面に映る「007 慰めの報酬」で使用されていた自動小銃AK-47の現物まで登場。物騒な展開も想像してハラハラしたが、終盤での種明かしにあっと驚き、喝采を送りたくなった。

ある人物の手に赤い“アレ”が渡るシーンで、私の脳内では自然にビートルズのジョン・レノンが歌う「Happiness Is a Warm Gun」のサビが流れていた。この歌詞の「銃」に性的なダブルミーニングがある、つまり男性器を示唆するのはよく知られた話。振り返ればジョンは暴力より愛とセックスを、戦争より平和をと、歌と行動で主張し続けた表現者だった(そのジョンが銃で殺されたのは悲しすぎる皮肉だが)。そんなジョンの願いと、西側から遠く離れたブータンで作られた映画のメッセージがつながっているようで、幸福をおすそ分けしてもらったような気にもなった。

高森 郁哉