「選挙導入に向けての国民審査をしたと考えれば、その意図を無視したものが導入されたのかなと思った思」お坊さまと鉄砲 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
選挙導入に向けての国民審査をしたと考えれば、その意図を無視したものが導入されたのかなと思った思
2024.12.17 字幕 アップリンク京都
2023年のブータン&アメリカ&フランス合作の映画(112分、G)
2005年の立憲君主制に向けての模擬選挙を描いたヒューマンコメディ
監督&脚本はパオ・チョニン・ドルジ
原題は『The Monk and the Gun』で、「僧侶と銃」という意味
物語の舞台は、ブータン中央部にあるウラ村
そこでは数少ない村民たちが暮らしていて、彼らのもとに国営放送が届いていた
国王の計らいによって立憲君主制が採択され、国民は初めての選挙を迎えることになった
そこで選挙委員会が立ち上げられ、各方面で投票登録の作業が行われることになった
ウラ村にはプバ(タンディン・プブ)が訪れていたが、一向に登録数が伸びず、都市部からツェリン(ペマ・ザンモ・シェルバ)が派遣されることになった
これらの動きを知った老僧ラマ(ケルサン・チョジェ)は、弟子のタシ(タンディン・ワンチュク)に「銃を二丁探せ」と命を授ける
そして、その期限は4日後の満月の夜までだった
一方その頃、ウラ村に住む老人ペンジョー(プブ・ドルジ)が所持しているアンティーク銃を求めて、銃コレクターのロン(ハリー・アインホーン)が訪れていた
彼の通訳にはガイドのベンジ(タンディン・ソナム)があたり、国内で禁止されている銃の売買をサポートすることになっていた
映画は、群像劇として描かれ、本筋はタシによる銃の獲得となっている
その背景に、コレクターの暗躍と選挙登録が行われていて、その当時の流れというものが感じられるようにできていた
ポスターヴィジュアルの中で、「銃を抱える僧侶が描かれている絵」が採用されているものがあって、この視点は小学生のユペル(ユペル・レンドゥップ・セルデン)のものだろう
ユペルはツェリンから消しゴムなどの文房具を貰うのだが、学校では父親の政治信条の相違によっていじられたりしていた
また、ユペルの父チョペル(チョイン・ジャツォ)と祖母アンガイ(Tsheri Zom)の支持政党が違うことで家庭内不和も起きていて、間に挟まれる母ツォモ(デキ・ラモ)は選挙に意味を見出せなかった
物語は、まさかの銃埋葬というとんでも展開になるのだが、仏塔を建てるためにはそこに何かしらを埋めなければならない
ラマが銃を選んだのは、世界中で起きている紛争の火種に政治による対立構造があると考えていたからだろう
選挙によって代表を選び、国民の声を反映させていく意味はあるものの、勝った方だけの意見を聞くとか、負けた方の意見を蔑ろにするという極端なものではダメなのだと思う
だが、今の先進国の政治を見ていると、是かと否かという分断の上で成り立っていて、宗教対立から思想対立へと切り替わっていくように見える
ラマには2005年の時点で「思想分断が幸福を壊す」と考えていて、それゆえに仏塔を建てなければならないと考えたのではないだろうか
いずれにせよ、ほんわかっぽい邦題を思うと、かなり攻め込んだ内容になっていて、そこに南北戦争(ドゥアール戦争)の銃が登場するのは感慨深い
その時代に使用されて同胞を殺した銃というところに意味があって、これはブータンと戦闘を起こしたイギリス(インド)が使用されたものだと思われる
その銃は外国からもたらされて自国民を殺したものであり、それを今回の選挙制度となぞらえているのだと思う
本来は、選挙など行わずにこれまでの国づくりを続けていけば良いものを、あえて壊して近代化させる意味はほとんどない
村民たちは「黄色(伝統の保護)」に票を集めたが、それは単なる国王の色ではなく、ブータンはこの先もこれまでのブータンであり続けたいという願いがあったのだろう
この選挙は模擬選挙だったが、選挙を導入するかどうかの国民審査のような意味もあるので、多くの人民が反対していたものを推し進めたと言っても過言ではないのかな、と感じた