「理不尽の連続に心疲れた」かたつむりのメモワール コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)
理不尽の連続に心疲れた
1970年代オーストラリアで、世の中の理不尽に翻弄され、心を閉ざす主人公グレースが、心を取り戻すまでの物語。
描かれるのはブラックジョークで塗りつぶされ、差別と暴力と性的非道に満ちた世界。
まずはグレースが自らの命を棄てようと葛藤する中で、過去を思い出すモノローグの形で生い立ちが語られる。
子ども時代のグレースは唇の上が少し裂けている口唇口蓋裂で、その手術のせいで笑い顔が不気味になり、いじめの対象になる。
双子の弟・ギルバートが身を挺してグレースをかばい、優しい父に慰められ、それなりの幸せの日々だったが……一転。
父が睡眠時無呼吸症候群から心不全で突然死したあと、双子の弟とは別々の里親に引き取られることになってしまう。
グレースの里親となる夫婦はスワッピング趣味でヌーディスト村で乱交するため常に家を離れて子供を放置(ネグレクト)した結果、グレースは引きこもりと強迫的ためこみ症と過食に走る。
不幸は次々にグレースを襲う。
弟のギルバートはキリスト教原理主義者夫妻に引き取られ、強制児童労働と虐待を受ける。
同性愛者だったギルバートは電気ショックなど「転向療法」という拷問を受け、教会の火事によって焼死を装って殺されてしまい、グレースの元に遺骨が送られてくる(実際のギルバートは死を偽装して逃げ出したのだけれども)。
傷ついたグレースは隣人のケンと恋に落ち、やがて結婚するが、実はケンは肥満女性フェチで、グレースを過食に誘導する悪意の持ち主であることが判明し、離婚する……
グレースにとって心のよりどころは、図書館のアルバイトを通じて知り合った、楽しい老人ピンキーだけ。
彼女の優しさに触れ、少しずつ心が癒されていくが、やがて老いたピンキーに死が迫る…
というのを、ポスタービジュアルにある人形を使ったストップモーションアニメで延々と見せられたわけで。
最後はある種の解放と安寧を得られて、感動するものの、そこまでに与えられるストレスの大きいことといったら。
心が疲れた。
かたつむりは、母のコレクションを引き継いだ以上に、グレースの閉じた心を表す暗喩であり、また雌雄同体であることでグレースとギルバートはクィアであることを示し、またゆっくり歩みを進めながら歩いた跡が残る生き方をしていけばいいということを喩えたなど、複数の意味を持つ存在として描かれているのかと想像しました。
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