劇場公開日 2025年3月14日

「インクルーシブ、ダイバーシティ」Flow 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 インクルーシブ、ダイバーシティ

2025年7月19日
iPhoneアプリから投稿

太古のロマンを誇示するでもなく、
生物滅亡の危機を声高に叫ぶわけでもない。

本作は、肩肘を張らない、
ある種の達観した視点で生命の営みを描き出す。

そこにあるのは、
獰猛な生存競争でも、
状況への果敢な抵抗でもなく、

ただ時の流れに身を委ね、
あるがままに生きる生命たちの姿だ。

主人公にとっての逆境は、
目の前の壁や木に、
ただ爪がかかるかどうかというささやかな試練に過ぎない。

大洪水や天変地異といった壮大な危機は、
主人公の認識する日々のステージとは異なる次元にある。

それらは地球にとっては日常の一部であり、
我々が認識するようなドラマチックな出来事としては描写されない。

それは1000年に一度、
あるいは10000年に一度の奇跡なのか、
それとも、
我々が気づかないだけで毎日繰り返されている日常なのか。

この悠久の時間軸の中で、
記録に残らない(残っているか・・)はずの生命の営みが、
確かに残っているという示唆は、
深い余韻を残す。

地球にとってすべては平常運行であるという、
壮大で哲学的な世界観が背景に提示はされている。

そして、この独特の世界観の中で、
鏡の自分や、
水面に写る自分たちが繰り返し強調される。

それは、生命が多様な姿で存在し、
それぞれが【固有の流れ】の中で、
【そのままでいい】ということを示唆しているようにも感じられる。

インクルーシブやダイバーシティといった現代的な概念とも繋がり、
個々の生命が持つ普遍的な価値を静かに問いかけてくる。

【追伸】
野生の猿が車のサイドミラーを破壊して持ち去る事件が、
頻発しています。

蛇足軒妖瀬布