「映像が美しいってだけではダメなのが映画です」Flow デッキブラシと飛行船さんの映画レビュー(感想・評価)
映像が美しいってだけではダメなのが映画です
主人公の黒猫が住みついてる家は、屋根も家の中も結構キレイな状態。
なのでこの物語の世界は、文明が滅びて人間がいなくなってからまだ日が浅い。
一方で家の前の猫のオブジェが苔むしていたり、冒頭のシーンで森の木の上にボートが引っかかっていたりするところを見ると、この世界は大洪水による急激な水位の上昇と、その後の急激な陸地の隆起を短いサイクルで繰り返しているらしい。
(なんでそんな事になってるのか全く意味不明だけど)
なので前回水位が上がった時、猫のオブジェは水没したけど、家の方は水没せず無事だったって事だろう。
そして黒猫はこの家に避難してきて住みついたか、もしくは元々この家の飼い猫だったのかもしれない。
アニメらしく動物キャラの顔を可愛くデフォルメしてるけど、キャラの動き自体は全編セリフ無し(鳴き声のみ)で四足歩行。擬人化せずにリアルに描いてるあたりは斬新だった。
また3Dアニメーションで終始ダイナミックにカメラを動かしてるのも、ゲーム画面っぽいというか目新しくて斬新だった。
でも良かったのはそれだけ。
具体的に言うと、黒猫が船に飛び乗って旅に出るところまではワクワクしながら楽しんで見れた。
でもその後はというと、仲間が増えて賑やかになってくるのはいいんだけど、基本的に目的もなく漂流してるだけなのでだんだん飽きてくる。
(船上で仲間とケンカして水に流されてまたケンカして水に流されての繰り返し)
その中で唯一白鷺だけが塔のような高い山に行きたいという目的を持っていた。
船上でほとんどの時間白鷺が舵を取っていたのが象徴的。
でも本来なら主人公である黒猫がこの役割を担わないとダメ。もしくは舵を取る白鷺と対立する立場にならないと。
(そうでないと黒猫の心理に葛藤が生まれないし、物語にもドラマ性が生まれない)
船の仲間に白鷺が加わった後は、白鷺がストーリーラインの中心にいて、黒猫はただの白鷺のお供状態。(立場逆だろ苦笑)
そして本筋とは関係ないところで他の脇役とドタバタケンカを繰り返すだけ。
せっかく主人公らしく表情が豊かに作り込まれてるのに、めっちゃもったいない扱い。
そしていちばん残念だったのが、終盤のクライマックス。白鷺が天に召される的な演出でいなくなったあと、黒猫の心理に何の変化も生まれていない。
これだと黒猫が何のために白鷺のお供をして高い山まで行ったのか意味が分からなくなる。
結局この黒猫って最初から最後までなんとなくの場当たり的な行動しかしていない。
主人公に何をやりたいという明確な目的がないと、観客は共感できる部分を見つけられず感情移入できない。
この黒猫可愛いねってだけで終わってしまう。
絵は綺麗だったし、演出も良かった。でもストーリー的にはかなり残念な内容だった。
アニメーション監督って綺麗な絵を描けただけで満足しちゃう人が結構多い。でも映画ってそういうもんじゃないでしょ。世界が水没したんならその状況でどう生き抜くか、キャラクターの目的と行動をきっちり描かないと。
2025/4/2
TOHOシネマズ川崎で鑑賞
