「高い芸術性に目を奪われ、神話的な物語に引き込まれる」Flow tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
高い芸術性に目を奪われ、神話的な物語に引き込まれる
台詞もなく、ナレーションもない長回しの描写には、どこか、無声映画のような、ドキュメンタリーのような趣きがある。3DCGアニメでありながら、ベッタリとした絵筆のタッチが残されているキャラクターには温かみがあり、絵画のように美しい背景と相まって、高い芸術性を感じ取ることができた。
黒猫が犬の群れから逃げている最中に鹿の大群に遭遇し、そのまま津波のような水に飲み込まれたり、船から落ちた黒猫が、鯨に乗っかり、鳥にさらわれた末に、元の船に戻って来たりといったシーンをワンカットで描くなど、アニメならではの見せ場も用意されている。
おそらく人類が滅亡した後の世界で、同じ船に乗り合わせて旅をすることになった動物たちの物語には、神話のような魅力が感じられて、引き込まれた。
擬人化されていない動物たちの動作や仕草にはリアリティがある一方で、登場する動物の種類からも、人間が遺した廃墟からも、地球上のどの地域の物語なのかを特定することは難しく、度々登場する鯨も、多数の細長いヒレを持っており、現存する鯨のようには思えない。
こうしたファンタジックな設定は、物語の寓意性を高める効果を上げているものの、尖塔のような山の頂上で無重力になり、ヘビクイワシが天に昇っていくシーンや、水が引いた後に、陸上に取り残された鯨が何を意味しているのかなど、言いたいことがよく分からないところもある。
ただし、映画としてのメッセージは明確で、一匹だけしか登場しない猫やカピバラは別にして、ヘビクイワシにしても、キツネザルにしても、犬にしても、同種族の仲間ではなく、旅を通して絆を深めた友人たちと一緒にいるという選択には胸が熱くなるし、そこには、「民族や宗教を超えて融和し、団結しよう」という作者の訴えも読み解くことができる。
また、ラストで、4匹が、水に映った自分たちの姿を見つめるシーンでは、「多様性の受容」という、現在の世界が直面する深刻な課題が心に刺さるのである。
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