「自然の摂理が不条理に思えるのは、思い通りにならず、都合が悪いと考えてしまうからだろう」Flow Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
自然の摂理が不条理に思えるのは、思い通りにならず、都合が悪いと考えてしまうからだろう
2025.3.14 イオンシネマ京都桂川
2024年のラトビア&フランス&ベルギー合作のアニメーション映画(84分、G)
洪水後の世界に生きる群れから外れた動物たちを描いた動物映画
監督はギンツ・ジルバロディス
脚本はギンツ・ジルバロディス&マティス・カザ
原題は『Straume』、英題は『Flow』で、ともに「流れ」という意味
物語は、大洪水が起きて、人間の姿が見えなくなった世界にて、一匹の濃い灰色の猫が、自分の住処から出て、冒険に巻き込まれる様子が描かれていく
木彫り職人の家に出入りする猫は、仲間も友だちもいない日々を過ごしていた
ある日のこと、犬が捕まえた魚を奪った猫は、必死になって彼らから逃げることになった
なんとか逃げきれた猫だったが、そこに洪水がきてしまい、濁流に流されてしまった
猫は追いかけてきた犬の一匹に助けられ、さらにヘビクイワシとも交流を持つことになった
映画は、猫を中心とした冒険になっていて、セリフは一切なく、見たままの世界が広がっていく
何が原因で大洪水が起きているのかはわからないが、不定期にいろんな場所で洪水が起こっていく
そうかと思えば、いきなり水が引いてしまい、海の生物が陸に打ち上げられたりしてしまう
彼らは自然の前では無力で、「流されるまま」生きていくしかない
本作には色んな動物が出てくるのだが、特徴的なのは「群れで生きる動物」と「群れから外れる動物」がいることだろう
自分以外の個体が一切いない訳ではないのだが、犬は群れから外れるし、ヘビクイワシも群れに置いて行かれてしまう
つがいが生まれることもなく、ただ今を切り取っていて、そこにはいつもと変わらぬ自然があるだけのように思えた
ラストでは、水が引いてしまったことで座礁するクジラが描かれるが、猫たちには何もすることができない
これまで自分たちを攻撃してきたものが、実は誰かを助けてきたものだったことがわかる
彼らはとても優秀で、人間なのかと見まごうほどに色んなことを吸収していく
それでも、動物の生態からは外れておらず、それがリアリティを生み出しているのだと思った
テーマ性は色々あると思うが、象徴的なのは「取り残されている」というところだと思う
いわゆる「ノアの方舟」に乗れなかった動物たちというイメージがあって、そんな彼らはどのように生きていくのかを描いていく
群れで生きる者もいれば、群れよりも大事なものを優先する者もいる
生きていく上で、生存本能よりも先立つものが動物にもあって、それが彼らのアイデンティティにも思えてくる
彼らは動物に見立てられた人間にも見えてくるが、人間だともう少し殺伐としているように思えるのは、「無益の殺生をするかしないか」というところなのだろう
それが自然界の掟だとするのならば、人間は一番下等にも思えてくるから不思議なものである
いずれにせよ、映画から何を感じるかはそれぞれに委ねられていると思うが、個人的には自然の摂理には都合というものがないということだと思った
何かしらの物理的な作用が起これば洪水は起こるし、それが引くのもまた然りという感じで、それらとどのように向き合うのかというものが描かれている
人間の目線で見ると「ああしたら良い」とか色々と思い巡ることがあっても、彼らの行動を見ていると、そう言ったことにもあまり意味がないように思えてくる
助かる時は助かるし、死ぬ時は死ぬと言った感じで、ただ生かされたからにはその時が来るまで生きるしかない
座礁したクジラも自然の一部であり、何かしらの作用によって救われることもあるかもしれない
だが、あそこで朽ちたとしても、それが無意味とは思わない
とは言え、このような意味づけをするのも人間のエゴのようなものなので、流されるままに生きていくのが本来の在り方なのかな、と感じた