「親である人、親になりたい人は一度は見るべきドキュメンタリー」どうすればよかったか? Jaxさんの映画レビュー(感想・評価)
親である人、親になりたい人は一度は見るべきドキュメンタリー
どうすればよかったか、その答えははっきり出ている。ただそれを出来なかった毒親とその犠牲となった姉と弟のドキュメンタリーだ。
医学部卒のエリート研究者夫婦と、優秀で面倒見の良い姉。
その姉が明らかに病気としか思えない症状を見せているのに、病気と認めず頑なに医師に診せることを拒んで南京錠で監禁する親。
しばらく実家と距離を置いていた弟が実家に帰るたびに説得するも、父親は母親の言うとおりにした、と逃げ、母親は「医者に連れて行ったら父親が死ぬ」と言って聞かない。世間体を気にするだけで姉のことも弟のことも思いやらず他責過ぎる両親。
弟が話しかけても姉は目の焦点も合わず明らかに健康ではない。髪もボサボサで身の回りのことすら出来ないのが見て取れる。
結局、母親に認知症の症状が現れ、夜中ずっと「暴力団が」「警察が」と支離滅裂なことを時間も怒鳴り続ける娘に老いた両親が自分たちで対応出来なくなってからやっと医者に連れて行く決心をする。
姉は良い薬が見つかり3ヶ月で退院。家事なども出来るまでに回復するが、最初に救急車を呼んでから25年が経っていた。
姉の失われた25年は戻ってこない。
どうすればよかったか、その答えははっきり出ている。最初からきちんと医療に繋げるべきだったのだ。そうすればもっと早い段階で回復し、自立し、就職し、家を出て、新たな家族を作ったり趣味を楽しんだり再度学問に励んだり自由に生きられたかもしれない。姉にはもっと豊かな選択肢があったはずなのだ。
それなのに90歳を過ぎて「もっとこうすれば良かったと思うことはないか」と弟が聞いても「失敗したとは思ってない」と平然と答える父親。姉の葬儀で「(娘は)充実した人生だったと思う」とも話している姿にはらわたが煮えくり返りそうになった。他人の親にここまで腹が立ったのは初めてだ。
もし統合失調症になったのが息子だったら、両親は殴る蹴るの暴行を受けたり、最悪刺されて殺されていたかもしれない。その方が良かったのかもしれない。少なくとも警察沙汰になればもっと早く医療に繋げられただろう。ステージ4のがんになるまえに見つかって処置がされたかもしれない。娘だからここまで長い間家に閉じ込められ、回復したと思ったらまだ若いのにがんで亡くなってしまった。
インディーズのドキュメンタリーにしては珍しく、昨年12月に公開されてから3月現在でも上映され多くの客が入っている。「失敗したとは思ってない」と答えた父親や母親の過ちが全国公開されているわけで、ある意味ではこれ以上にない両親への復讐になったのだと思いたい。そうでなければあまりに姉が報われない。
どんなに裕福で優秀で医学部を出た親でも自分の娘が精神の病であることを認められないクソな親がいるということを明らかにした点でこのドキュメンタリーは非常に優れているだろう
親である人、親になりたい人は一度は見るべきドキュメンタリーだ。