「「最後に聞きたいんだけど、もし機会があるならどうすれば一番よかったと思う?」」どうすればよかったか? 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
「最後に聞きたいんだけど、もし機会があるならどうすれば一番よかったと思う?」
父と、母と、統合失調症を患った8歳上の姉と、弟(監督藤野知明)。弟は、早い段階で姉の異変に気付いているし、両親が姉の障害になっていることにも絶望し、この現実を記録していずれ将来は映像化することを決意している。そのくらいしか、自身が姉にしてあげられることがないと察している。なら無理してでも病院に、と他人が言うのは容易いだろう。無理だったと思う。こんな世間体を気にする両親に抵抗するのは。そしてどんどんドツボにハマっていく家族。悲劇的でいたたまれない。せめて、現実を受け止める冷静さと判断力を持った弟がいたことが、この家族のストッパーであったと思う。おそらく、弟という常識の存在が、残りの家族の崩壊を食い止めていたのだろう。父は、見栄(カメラの前でいつもお気に入りのシャツを着ているのがその表れだ)や体裁(娘を外に出そうとしない)で凝り固められ、母は、旦那の意見に異を唱えることさえせず、娘の尊厳を無視していることに気づかない。娘は、心と体が一体じゃない自分を自分自身ではどうしようもないジレンマを抱え、自分自身をコントロールする術さえ知らず、おそらく自分が何者かさえも分からなくなっている。警戒、妄想からくる発狂と無表情。これがわが身、我が家族であったらどれほど困難な人生を送ることだろう。
最後に弟は、この記録を映画にすることの承諾を父に訊ねる。
「最後に聞きたいんだけど、もし機会があるならどうすれば一番よかったと思う?」
父は答える。
「失敗したとは思っていないね」
その言葉を聞いた時に僕は、怒りを覚えた。だからと言って今さら何もできない(他人だからなおさらそうだが)無力さに打ちのめされた。
終映後、公開後ずいぶん経っているのに半分を超える席が埋められた劇場は、だれも言葉を発することなく無言だった。