劇場公開日 2024年12月7日

「満席のミニシアター。上映後、全員が無言だった。」どうすればよかったか? つーじさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0満席のミニシアター。上映後、全員が無言だった。

2025年2月1日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

統合失調症の症状が現れた姉と、彼女を精神科の受診から遠ざけた両親の姿を20年にわたって自ら記録したドキュメンタリー。お姉さんの症状も、家族の衝突も、それぞれの認識もつぶさに残す。

「どうすればよかったと思いますか?」

息子から投げかけれた質問に対して、お父さんが
「失敗ではないと思う」と答えたのが印象的だった。
ここに当事者への介入の難しさがあると思う。

他者から見て、こうしたらいいだろう、こうすればよいのに、は当事者には関係ない。なぜなら、他者は当事者ではないから。

当事者がその時々に「どうしたらいいだろう?」と考え、時には諦め、時には保留し、時にはやっぱり「どうしたらよかったか?」と自身の選択を後悔しながら、瞬間瞬間を進めている。その瞬間が、当事者にとって答えであり、正解にするしかないというようなカルマをも背負っている。

私がこの映画を見たミニシアターは満席だった。
映画が終わり、照明が明るくなって、それぞれが立ち上がっても尚、誰も喋らなかった。誰もが頭の中で映画を反芻し「どうすればよかったか?」「こうすればよかったのに」を反復しながら、誰も明確な答えを持ち合わせていないかのようだった。

何をどうしたって、時は巻き戻せない。今の選択を振り返ると、もっとよかったであろう選択が無数に出てくる。そちらの方が当たり前によく見えて、複雑に絡み合った今の瞬間を否定したくなることがある。だけど、フィルムに残るお姉さんの両手ピースや片足立ち、花火にインスタントカメラを向ける姿は、否定したくないと思った。その姿を見れたことこそが、この映画の功績なのではないかと思った。

つーじ