「とある家族の記録」どうすればよかったか? 邦画野郎さんの映画レビュー(感想・評価)
とある家族の記録
障害者施設の職員をしています。
この作品はある程度、統合失調症というものをわかっていたりそういった人に関わっている方向けな作品なのかなと思いました。
特に冒頭のシーンは普段こういった方に接してない方には衝撃的なものであるかと思います。
内容としては医師夫婦の優秀な娘として育ってきたのが大学生の頃には発病。しかし両親は精神科の治療を受けさせず、息子には知り合いの精神科医からは精神的な病ではないと診断されたと話し、その後20年以上ほど自宅で軟禁状態になります。そのことに疑問を抱き続けた息子がある時からその家族の様子をビデオカメラで記録し続けていきます。そのようすを辿っていくのが今作品です。
ここからは私の感じたことを。
彼女が発病したのは1980年代。まだ統合失調症が精神分裂病と呼ばれていた時代。私も子供の頃から聞いたことのある病名でした。
この頃のこの病気に対するイメージはあくまで自分の育ってきた環境での認識になりますが、いわゆる「キ◯ガイ」でした。
おそらくこういった時代背景もあり、この両親は自分の娘がそんな病気になるはずがないという認めたくない面と、医師であるが故の外に知られたくないという世間体を気にしたプライドの高さのようなものがあったのだと思います。
息子の家族へのインタビューのなかで見えたのは父は頑なに精神科につなぐことを拒否し、母は精神科に繋いだ方がいいのではと思いつつも父がそう思ってないので父の意思を尊重するといった部分。母は作中の途中で他界するため本心を聞けずにこの世を去りますが父が直近のインタビューでは娘のことを統合失調症だと思ってはいたとぼそっと言うシーンもあり、また精神科につながなかったのは母が統合失調症を認めたくなかったんだというような言い分を話しています。この辺りは母からの話が聞けなくなった現状ではこの夫婦のその当時の本音ははっきりとはしませんがおそらくは夫婦2人とも娘の病気を認めたくなかったという思いがあったのは間違いないと思います。
発病から25年ほど経った頃、母が認知症になってきたことによりついに娘を精神科に入院させることを父も承諾します。
そしてたった3ヶ月の入院で娘の様子は全く違うものになります。
精神科につなぐまでは弟に全く話そうとしなかったのが口を聞くようになります。
またその内容も以前まではいわゆる妄想的な意味不明なことをマシンガントークのように放つ感じでしたが会話が成り立つような内容に変化しています。
そして何よりこの作品の中で大きな象徴だと感じたところですが姉が弟のカメラに向かってピースをするのです。私はこの場面がとにかく印象的でした。
そこから彼女の生活は変わっていきます。
軟禁状態で外に出れなかった生活が弟と父と外に出かけたり、料理をして洗い物をするようにもなります。
しかしそんな中、彼女は肺がんのステージ4となってしまいます。
弟はできるだけ姉の希望に寄り添っていろんなところに出かけたりクリスマスにケーキを食べたり家族で過ごす時間をたくさん作ります。
残念ながらそこから数年後に彼女は亡くなりますが、最後は幸せな時間をたくさん過ごせたのではないかと思います。
しかしその反面、もっと早くこのような時間を過ごせたのではないかとも感じます。
それでも父親は後半の直近のインタビューでも自分の子育ては間違っていなかったと話していて、そのプライドの高さというか、何もわかってないのか私は正直イラっとしました。
この作品は冒頭にも出てくるように
統合失調症を理解したり知るためのものではないと思います。
とある家族の記録を見ていく作品です。
これを見て何を感じるかは人それぞれかと思います。様々なドキュメンタリー作品がある中でもだいぶ見応えのある作品ではあるのでぜひ多くの方に見ていただきたい作品ではありますが、妄想状態の発作のところの発狂なんかはなかなか衝撃的なシーンでもあるためその辺りは鑑賞注意です。