劇場公開日 2024年12月7日

「言葉にならない余韻を残す家族の物語」どうすればよかったか? ノンタさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5言葉にならない余韻を残す家族の物語

2024年12月29日
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鑑賞方法:映画館

銀座の映画館で1日1回だけの上映。地味な作品のロードショー3週目にもかかわらず、超満員。これだけの観客を集めるのは、この映画が多くの人々の関心を引き、共感や問いを呼び起こしている証拠だろう。

冒頭、録音された音声だけで始まる家族のケンカが観客の好奇心をかき立て、「一体何が起きたのか」「この家族に何があるのか」を追いかける展開へと誘う。
やがて提示されるのは、優しく優秀だった姉の、精神の病の発症から18年後。映像制作を学び始めた監督が、家族の記録をカメラに残し始める物語。この出発点が家族間の問題の解像度を高めるきっかけとなる。

映画を通じて描かれる両親、とりわけ父親の態度は謎だ。
姉が精神的なバランスを崩した発症直後、両親は一度は救急車を呼び、精神科医に診せている。しかし、その後、医療的な介入を避け続ける。その背景には何があったのか?
監督もこれを後に両親に問いかけるが、明確な答えは得られない。

優秀で子供の頃は「天使のようだった」姉が、望む進路への道を歩み始めたところで精神を病むという落差は、深い痛みを与える。
彼女がその後も家族と共に暮らす。時折見せる爆発的な感情は、何か抑えられた後悔や怒りを想起させる。
ただ、それを「思い通りの人生を歩めなかった後悔」と読み取るのは、勝手な推測だ。病の症状だと考えるべきなのだろう。ただそう割り切れない感情が渦巻くのが本作なのだ。

監督自身はカメラを回すことで、感情的な巻き込まれから距離を置き、冷静さを保てたようにみえる。この冷静さが、家族の話を引き出す手助けとなり、記録を続けるエネルギーとなったようだ。

「どうすればよかったか?」この問いは、観客への問いとして提示される。監督自身も何度も自問自答した言葉のはずだ。「あなたならどうすればよかったと思いますか?」と問うこの映画は、答えを提示するのではなく、問いを共有することで観客自身の中に家族や人生についての考察を促す。

終盤で監督が老いた父に正面から「どうすればよかったと思っているのか?」を問うシーンは、観客に強い衝撃と余韻を残す。
長い年月を経て初めてこの問いを正面から投げかけた監督の姿勢に、彼自身の「これしかなかった」という諦めにも似た思いがにじむ。
同時に、父の答えが「別の可能性はなかったのではないか」という別の疑問を生み、それが観客の中に強い印象を残す。

60年以上にわたる家族の歴史を通じて、この映画は「人生の儚さ」と「選択の難しさ」を深く考えさせられる作品だった。
答えが出ないからこそ、この映画は観客にとって普遍的で心に残る体験となるのだろう。

ノンタ