劇場公開日 2024年12月7日

「両親の愛情と監督の下心」どうすればよかったか? おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0両親の愛情と監督の下心

2024年12月24日
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公開日から一週間後に鑑賞。
公開館数が少なくて上映回数も少ないのに話題沸騰なため、満席だらけ。
クレジットカード不所持でオンライン予約出来ない人間には、チケット購入難易度が最高峰だった。
上映時間よりもかなり早めに映画館に行ったら、映画館自体はまだ開店前だったのに列ができてて、チケットを購入するために列に並んで購入。
映画チケットを並んで購入なんて、下手したら2011年の東日本大震災で映画館がしばらく休館後、再開した時に映画館に人が殺到して、『塔の上のラプンツェル』のチケットを買うために一時間並んだ時以来かも。

事前に聞いていた話だと「20代で統合失調症を発症した娘を、両親が世間に悟られないようにするため、25年間監禁し続けた話」と聞いていたが、観た後は「そうかな?」という感じがした。
結果的には両親の行いは間違っていたことになるが、両親は世間体を気にして娘を家に閉じ込めていたわけでは無く、本気でその方が娘のためになると思っての行動のように思えた。
もし両親が自己保身ばかりで娘に愛情がなかった場合、お金は稼いでいそうなので、精神科の施設に送り飛ばして終わりな気がする。
そうでなくても娘への対応がもっと雑だったり虐待チックだったりしてもおかしくなさそうだけど、そうは感じなかった。
家に南京錠をかけて娘を軟禁していた件も、一人で外出させた時に過去に警察沙汰を起こしていたことがあるわけで、娘を守るための行動としては仕方ないような気がした。

一方、弟でもある監督に対しては、映画を観るにつれて不信感が募っていった。

※ここから「お前何様?」と思われても仕方ないぐらいの監督批判が永遠と続き、気分を害させる可能性大なので、閲覧しない方がいいかも。

監督は「お姉さんを救いたい」みたいなことを言っていたが、実際にとった行動は「社会人になったのをきっかけに実家のある北海道を離れて神奈川で一人暮らし」→「30歳を超えて映画監督を目指す」→「実家の様子を録画し始める」という流れだが、行動だけ見ると「家の面倒に巻き込まれたくなくて実家から離れたが(この行動自体は責められないと思う)、映画監督を目指すようになり、身近にドキュメンタリーのネタがあることに気付き、本腰入れて家族の問題に直視するようになった」と感じた。

ひねくれた見方かもしれないが、映画を観ていると「お姉さんを救いたい」気持ちよりも「ドキュメンタリーを作りたい」気持ちが優先されているように感じる場面が多々あった。

例えば、台所の場面。
お姉さんが洗い物をしている最中、夕飯の残り物を冷蔵庫にしまうことを思い付き、洗い物を中断し、残り物の入った皿にラップをかけようとするが悪戦苦闘。
その間、水道の水はずーーーっと出っ放し。
動画を撮っている監督はただ静観。
ドキュメンタリー監督として「被写体に関与しない」姿勢は正しいのかもしれないが、目の前の女性は「被写体」である前に「実の姉」。
仮に監督がお姉さんに「水、出っ放しだよ」と声をかけ、それでお姉さんが蛇口を閉めたとしても、観客には「お姉さんは忘れっぽい」という情報は伝わると思うのだが、なぜ監督が声をかけなかったかといえば、それは「お姉さんの異常性を際立たせる」ためですよね?

他にも、お姉さんのキレてる場面が何度か出てくるが、ほとんどの場面が「キレてるところから」の映像で始まっているのも疑問に感じた。
もしかしたら正当な理由で怒っているかもしれないのに、この作りだと「お姉さんが突然キレ出した」ように見える悪意のある編集に感じた。
もし本当に突然キレ出したのだとしたら、キレる少し前の場面から映像を始めた方が、家族の大変さがより伝わったと思うのだが…

この映画の始まりがお姉さんの喚き散らす音声から始まっているのも、後から考えると問題な気がしてきた。
映画の掴みとしては抜群だったかもしれないが、監督が本当にお姉さんに愛情を持っていたとしたら、お姉さんのみっともない音声を掴みに使ったりするものなのだろうか?

監督がお姉さんに話しかける場面も気になった。
ガン無視されているように見えたが、気のせい?
別に姉弟で仲が悪いのは珍しいことではない。
普段からそんなに仲良くなかったのに、お姉さんに声かけて無視される理由を「病気のせいでこういうリアクションになっている」ように編集で見せていたとしたら悪質だと思った。
「お姉さん、子供の頃、可愛がってくれたよねえ」なんて、記憶喪失じゃないのにそんなことわざわざ言うかなあ。

途中に出てくる、お姉さんを病院に連れていくように、監督が母親を説得する場面も酷いと思った。
あれだと説得ではなく詰問。
相手のダメなところをあぶり出して否定しているだけ。
最近の言い方でいえば「論破」。
本気でお姉さんを病院に連れて行きたいんだったら、「どうすればよかったか?」なんて言ってないで、「本」でも「人に相談」でも「YouTube」でもなんでも良いので、もっと人への説得の仕方を勉強すべきでは?と思った。
「人の心を動かす」能力って、映画監督には重要な能力だと思うのだが。

まあこれからは、子供が統合失調症になっても病院に連れて行かない親がいたら、この映画を観せればOK。

本作は統合失調症だけではなく、引きこもりや介護の問題も内包していると感じた。
そういう意味では、最近耳にするようになった「8050問題」を描いた映画として捉えることも可能といえなくもない。

最後まで観終わって、2014年公開映画『6才のボクが、大人になるまで。』のことを思い出した。
たとえ途中にいろいろなことがあったとしても、幼い女の子が白髪混じりの老人になるまでを一続きで見せられたことで、「人生って尊いんだなあ」と感傷的な気分になった。

おきらく