「障壁と構図、そして人間描写」大丈夫と約束して とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)
障壁と構図、そして人間描写
母親と祖母の言い合いを暗い寝室から盗み見るシーンから一貫して、窓枠など障壁物がカメラと被写体の間に挟まれる形のショットが続く。とりわけ、"仕事"風景含む家族(母親)の関わることとなると多用されている印象。それまでの詰まった印象を受けるそれとは意味合い・性質が異なる開かれた場所で、母性を象徴する牛と(盗み見)対峙するシーンでそれが顕著に。
一方で、仲間(アダム、ユロ、ドミニク)たちといるときの全体像が見えない・分からないくらい至近距離からの撮影など肉薄して、まるで自分事として身近に受け取れる。と同時に、バイクシーンとなると、顕著に離れたところからのロングショット。
そうした、閉じた構図と開いた構図の使い分けが印象的。
細部に魂が宿り、感情・行動原理が繋がっていて人間が描かれている人間観察の賜物か、素晴らしく見応えのあるスロバキア発カミングオブエイジ成長モノ。冒頭の方のカメラに向けられる主人公エニョの眼差しから引き込まれてしまって、もう夢中…。
虫の飛ぶ音に、一見予想打にしないようなまさかの選曲など、印象的な音(楽)が作品を形作り彩る。そして、バイク(モパッド)修理が冒頭と終盤で繰り返される差異を伴う反復イメージングシステム。どの画もキマっていてよかった。
お前の母ちゃん闇金ペテン師!家族の悪口禁止!母親より友達が大事?後ろ暗いヤクザ商売と知るとき、(経験者は語る)"盗みはするな"とあれだけ口酸っぱく釘を刺されてきたのに。盗みをすることは、母親との決別を意味する決意表明。村社会の噂と生きづらさ閉塞感とその裏にある社会情勢、職がなくて社会奉仕ガラス工場に込められたスロバキアのリアル。ウテカチ村で見つけたキャスティング。
からの、母親サプライズ逃げ帰り帰省デート。散髪シーンで母親の脚のカットが挟まれたことで、急にそこに性的ななにか意味合いを感じてしまったわけで、それ故のそこからはまるでデート(けどエニョの顔に笑顔はない)。開けた場所でセルフィー。エニョ役ミハエルの、時としてリヴァー・フェニックスのような刹那的な切れ味と、その鬱屈した思いを抱えながら力強い眼差し。彼はどこに向かうのか?
赤
P.S. これはジリジリと積み上げていくタイプの作家性のある(故に丹念な)映画的カタルシスで、分かりやすいカタルシスが少ない分、とりわけここ日本での観客(大衆)ウケは低いだろうなと思った。個人的には映画館で観てよかったと感じたけど、従来ならネトフリNetflixなどストリーミングサービスのオリジナル作品にあるタイプかも。
勝手に関連作品『大人は判ってくれない』