「ふつうに退屈な作品」白雪姫 廣木ろひろひさんの映画レビュー(感想・評価)
ふつうに退屈な作品
先日『ウィキッド』を観たこともあり、似た映画を2作続けて観ることになるな〜と思いながら鑑賞した。悪い意味で、この予想は大きく外れてしまった。ウィキッドとの類似点は、実写、ミュージカル、リメイク。制作会社は違えど、とても似ている。そもそもウィキッドの上映が始まるまで、こちらもディズニーだと思い込んでいたくらいだ。できればこのままウィキッドの話をしていたい。そんな映画だった。
上映中、「このまま帰ろうか」と思ってしまった。同行者に悪いので思いとどまったものの、後半30分は目を瞑って休めている時間もあった。ミュージカルなのでかろうじて音楽を聞いていられるのが救いだった。
先にこの映画の好きな点を挙げておきたい。まず女王役のガル・ガドットが美しい。邪悪な気品がある。歌もよかった。また、登場人物の英語が平易で発音が聞き取りやすい。子供が観ることを想定した配慮だろうか。ふだん英語学習をされているかたは大分自信が得られるのではないか(もっとも、私は英語学習をしていないし、聞き取れていもいない)。それから(女王以外も)俳優の演技に違和感がない。この評価帯を下回ってくると「観ているこちらが辛くなる」作品も増えてくるが、ここはディズニーの意地を感じた。
次にこの映画の好きになれなかった点を挙げると、上記以外のすべてとなる。ほとんど何も好きになれなかった。
まず白雪姫役のレイチェル・ゼグラー。白雪姫が幼少期から大人になった瞬間「えっ?」と思ってしまった。なんとか好きになろうと努力して歌にも耳を傾けたが、ダメだった。「白雪姫だから白人にやってほしい」という話ではない(『リトルマーメイド』でアリエル役を担ったハリー・ベイリーは好きだ)。シンプルに、白雪姫としての魅力を感じなかった。この感想を書くにあたって彼女の Youtube も観てきたし、Google 画像検索してほかでどのように演出されているのかも確認した。そのうえで言うと、レイチェル・ゼグラー自身は美しいし、歌唱も素晴らしい。だが、白雪姫として見たときに魅力的でない。思うに、白雪姫の衣装と違和感が生じないように化粧等に工夫がなされたのではないか(もしかすると諸悪の根源はあの安っぽすぎる衣装だったのかもしれない)。その結果、なんだか似合っていないけどギリギリありっちゃあり、という不名誉な状態になってしまったのではないか(特に髪型がなんとかならないものか)。すこし違う角度からいうと、最近ディズニー映画を観る機会が多いせいで「ディズニーのミュージカル部分的な歌唱」の型に私が慣れてしまったのかもしれない。そのせいで「またこの歌唱か」と思ってしまった部分もあるのかもしれない。なんにせよ非常に残念である。彼女の次回作に期待している。
次にミュージカル部分だが、ふつう、という感じだった。無難である。良かったが、あまり感動していない。近年のミュージカル映画は基本的に「歌っているだけで感動する」レベルで作られているし、ディズニー映画は歌い出すと大体涙が出てくる。『ウィキッド』も冒頭の不穏なミュージカルだけでも「おおっ」と思った。その基準で見てしまうと失望してしまう。こうした感動は何もなかった。
それから物語全般として、まとまり、一貫性を感じなかった。細かい話をすると、たとえば白雪姫が森に逃げる際、木の枝がまとわりつく描写があった。枝のまとわりつきかたが絶妙で、簡単に振り払える。だから最初「これは恐怖している白雪姫にはそう見えている、と言う演出なんだな」と理解していた。ら、思いきり樹木のオバケが出てきて「オバケなんか〜い!」と思ってしまった。またこれは同席者が言っていたことだが、小人が「私は鉱物の博士だ」という旨の発言をした際に、白雪姫が小人にジョナサンの治療を命令するシーンがあった。鉱物の博士に人間の治療を「命令」するものだろうか? こうしたマイクロ違和感が散りばめられていて、物語に没入できない。もちろんファンタジーなので不思議なことはあっても構わない。実際『哀れなるものたち』は不思議なことだらけだったが、そういうものとして受け入れながら鑑賞できた。説得力とは文字通り「力」なのであって、本作にはその力が不足していたように感じる。やれ原作との違いだの、小人のCGだの、言ってみても良いが、そういった話の根幹として、説得力が欠けていた。
この映画に2未満の評価を付けている人もいるようだが、そこまで酷いとは感じなかった。誹謗中傷になってしまうため作品名を挙げるのは避けるが、「この映画を観るためのお金と時間を返してもらったとしても、この苦痛が残るのは嫌だ」と感じる映画もある。しかも、わりとある。同行者が見たいと言ったり、怖いもの見たさだったり、「意外とこういうこところに予想外の名作があったりして」と思ったりして、後悔することがある。本作は観ずに済ませるのが一番だが、観たからといってそこまでの苦痛はない。ふつうに退屈な作品。ただ、退屈な作品あっての名作である。観て退屈すればいいのかもしれない。