「天文手帳、久しぶりに買ってみようかな、と思った」秒速5センチメートル ぽんすけさんの映画レビュー(感想・評価)
天文手帳、久しぶりに買ってみようかな、と思った
踏切シーンや岩舟駅を忠実に再現しているし、種子島のコンビニや高校でもロケをしていて、ファンはそれだけでもニッコリ。会社の机には原作と同じ技術書「マスタリングTCP/IP」が積んである
貴樹が種子島で煙草を吸っているのは、もう一冊の小説版「秒速5センチメートル one more side」に由来する。こちらの小説では原作と反対側の視点で語られる。高校時代はほとんどone more sideなので、花苗は本作一番にまぶしく映っているのに、あくまですみっコぐらし。もちろん愛犬カブも出てこない
花苗からの好意を心地よい距離へ遠ざけたり近づけたりする貴樹のズルさが原作以上に目立つ。(あとで理沙がグサリと言って、花苗の無念を晴らす。)似た者同士の小学生だったのに、なんで貴樹は30歳手前になっても貴樹のままで、明里は大人の女性に見えるのか。その答えとなりうる明里のストーリーもone more sideにある
改変も違和感がない。原作の小学生時代は「カンブリア紀」とハモっていたが、本作では天文の話に変更されて、物語の背骨になっている。ちなみに目を覆いたくなるクラスメートのからかいは適切に修正されている
文句をつけるとしたら「来年もまた桜見れるといいね」を後に回したので、その焦らしが憎たらしい。又吉直樹がハマリ役で面白すぎて初見では気が散る。岩舟駅に辿り着くまでの焦らしが足りてない。でもトータルでは監督への感謝がボコボコ湧いてくる
全然関係ないが、男女別々の視点で書かれた「冷静と情熱の間」という2冊の小説がある。こちらは30歳の誕生日にイタリアで待ち合わせする壮大な約束の話で、「思い出は過去、約束は未来」という台詞がある。明里との約束が過去になって、登場人物の思いがリレーのように繋がる。この物語のあと、貴樹もきっと少しずつ変わっていく。劇場が明るくなった時、原作とはちがった不思議な感覚で、そっと背中を撫でられたような気持ちになった。自分だったら付箋に何を書くか、しばらく考え続けたい
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