「二人の交わらない線に残る「余韻」。」秒速5センチメートル ガバチョさんの映画レビュー(感想・評価)
二人の交わらない線に残る「余韻」。
原作のアニメは、三部構成でそれぞれ独立した作品の印象があった。本作はアニメの内容を尊重しながら、現在のおとなになった貴樹と明里を重点的に描くことで、半ば忘れていたこども時代の二人の交流の記憶を鮮やかに蘇らせているのが良い。1本の映画としてとてもまとまっており、貴樹と明里の心情も丁寧に描かれていて、二人にとってあの時代が今どんな意味を持っているのかみたいなことがよく伝わる。あの時代に置いて来てしまった大事な思いを再発見するのがテーマになっていると感じた。
小中学校時代の貴樹と明里の交際には切実さがある。二人とも孤独感を抱えていたため、相手を素直に受け入れ、お互いになくてはならない存在になっていった。貴樹は、明里がいたから自分らしくいられると思い、明里も貴樹と「好きなもの」を共有し生き生きと過ごすことができた。貴樹が転校した明里に会いに行くシーンは、なかなか動かない列車に切実さが極まっていく。再会した桜の木の前で、その美しさに感動して二人の気持ちも極まる。相手への「好き」という気持ちと、将来への期待と不安をも共有する。二人はその場で小惑星の接近に因んだある「約束」をするが、どうしようもない別れはあまりに切ない。
高校時代はアニメを踏襲しているが、あまり重要なパートにはなっていないようだ。貴樹の心情が分かりにくい。彼に好意を寄せる花苗に優しくするが、心を開かない不誠実な人物に誤解される。花苗の姉の美鳥先生が後に貴樹と再会して重要な役割を果たすので、その人物紹介という意味があるように思った。
おとなになった貴樹と明里が、近い距離にいながら会えそうで会えない場面はとても良くできている。美鳥先生と小川館長が間に入ってとても面白い展開になっていた。あの時の「約束」を意識しながら、明里は行かない、貴樹は行くという選択をした。その異なった決断について、二人の境遇や心情の違いが伝わり、アニメにはない良い結末であった。迷える貴樹は自分の進むべき道を見出し、しっかり者の明里はずっと貴樹にエールを送りながら別の道に踏み出す。こども時代からおとなの現在までが一つにつながったドラマが完成していて、とても満足感があり余韻の残る作品でした。
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