「儚い思い出が、雪のように降り注ぐ物語」秒速5センチメートル 蓮華くんさんの映画レビュー(感想・評価)
儚い思い出が、雪のように降り注ぐ物語
私は、派手だったりショッキングだったり、観客の恐怖を煽ったりする映画がやや苦手(=ストーリーテリングするのに観客を威嚇する必要あるのかな?という違和感がある)なのですが、
「秒速5センチメートル」は、その対極にあるような、静かで儚げで、しかし確かに心の奥底で煌めく大切な思い出を抱きしめ、じんわりと噛みしめるような映画です。
人と深く関わることに消極的で、遠い宇宙に憧れる主人公の遠野貴樹(とおの たかき)(松村北斗さん)の小学生期、高校生期、アラサー大人期の時点ごとに、
惑星の軌道が点で交わるような出会いがあり、そして離縁していく女性たちとの関わりが物語の軸になっています。
主要ヒロインのキャストは以下です
・小学生期:篠原明里(しのはら あかり)(白山乃愛さん)
・高校生期:澄田花苗(すみた かなえ)(森七菜さん)
・大人期:水野理沙(みずの りさ)(木竜麻生さん)
・大人期:篠原明里(しのはら あかり)(高畑充希さん)
あと、「澄田花苗」の姉であり、通う高校の教師である「輿水美鳥(こしみず みとり)(宮崎あおいさん)」も、貴樹と対話するシーンがあります。
※大人期にも美鳥は登場するので、「輿水」の名字はおそらく結婚後のものでしょう。
それぞれのキャラクターの感想・・・
・遠野貴樹(とおの たかき)(松村北斗さん)
まるで白い紙に藍色の水彩絵の具を薄く引いたような、自己主張をあまりしない自然体の男性です。
女性と関わるときも、「自分を良く見せよう」とか、「相手を支配しよう」というようなガツガツ感が全くありません。
でも、関わる女性側は、そんな貴樹に興味や好意を持って、しっかり見て向き合ってくれるし、存在を肯定してくれるような寛容な女性ばかりで、ある意味幸せ者です。
この辺は、原作がアニメなので、「リアルはちょっと違う!」というツッコミは私は自粛しました。
・篠原明里(しのはら あかり)(白山乃愛さん)
白山さんはまだ小学生でしょうに、完全にどこから見ても「大人の女性」の所作なのでビックリしました。
役者さんも人間ですから、どこかしらに「隙」があるのが普通だと思いますが、この子役さんは、完成されている大人ですね。
「大人ぶって背伸びしている子役さん」ではなく、本物の大人です。
これでなぜ小学生なんだ・・・と驚愕しましたが、映画に没頭するために、単純に「可愛らしくて性格が良い子だな」と思うようにしました。
・澄田花苗(すみた かなえ)(森七菜さん)
サーフィンが趣味の、アクティブな高校生です。
貴樹のことを「普通の男の子とは違う」と直感し、初々しい恋心を寄せます。
貴樹と学校の帰りに買い食いするシーンなど、表情や仕草から「貴樹のことが好き好き!」雰囲気がダダ漏れで、微笑ましかったです。
・水野理沙(みずの りさ)(木竜麻生さん)
アラサーとなった貴樹と同じIT会社に勤務する同僚であり、恋人でもあります。
貴樹と同様に、会社の人と、必要以上に関わらず、一定の距離を取ってコツコツ仕事をしています。
個人的に気になったのは、貴樹を家に呼んだときに、コーヒー豆をプロペラ式のコーヒーミルで挽いている所が、リアルだなぁと思いました。
・篠原明里(しのはら あかり)(高畑充希さん)
大人の明里は高畑充希さんが演じています。
とても雰囲気がフワフワとしていて、儚げで、可憐な女性です。
誰とでも、スムーズに仲良くなれそうな、魅力があります。
個人的に、高畑充希さんは結構「芯が強い女性」だと勝手に思っていたのですが、今回の役は、本当に羽毛のようにフワフワしているので、驚きがあり、新鮮に感じました。
(まとめ)
総じて言えば、女性キャストがみなさん可愛いです。
この辺も、アニメ原作の影響を受けてのことだと思いますが、映画を観ていても、その背後というか、屋台骨として、「あぁ、なるほど、原作のアニメの輪郭が見えてくるな」と納得する所がありました。
それだけ、制作陣が、原作をリスペクトしていた証だと思います。
全体の印象としては特に演出においては「映画を撮り慣れていない感」がありましたが、監督さんが写真家も兼業しているということで、背景映像がどれも美しく光っていました。
特に、桜と雪が同時に舞う情景は、しみじみと美しさに見惚れました。
そして、その背景は、一貫して、役者を引き立てる舞台装置に徹している・・・その辺の仕事も感服致しました。
当初あまり期待していなかったですが、「良い映画を観たなぁ」と大満足でした。「この制作陣はまだもっと伸びしろがある!」と期待したので星4.5としました。
