「冒険精神の塊で勝ち切った感あり」秒速5センチメートル ONIさんの映画レビュー(感想・評価)
冒険精神の塊で勝ち切った感あり
ありそうでない、と言う感じの映画だった。そもそも元のアニメも言ってみれば自主制作で確か下北沢とかでやっていた。それが今じゃ国民的アニメーション監督。で、その自主制作時代の作品(つまりは非商業映画)を実写化。しかもフジテレビ。そしてそこに写真家の奥山由之。もう実験精神しかない。しかし岩井俊二の『Love letter』も行定勲の『世界の中心で愛を叫ぶ』そんなもんだったよな、ということまで思い出しながらの『秒速5センチメートル』はfilm撮影っぽい。16ミリか。
割と序盤からウルっとくる。少年少女の出会いだ。奥山由之監督は弟の奥山大史監督(すごい兄弟だ)と違い、監督としてはカメラマンの割には構図できっちくるわけではなくドキュメンタリーのように被写体に接していく。今村圭佑のカメラは個人的には正直そんなに好きではないのだけど、このコンビで、やっぱりうるさいことを言ってきそうな新海誠のファンを押さえ込むという意図はないだろうがリスペクトする意味合いでのアプローチ(再現含む)が多そうなのでそこはあまり考えない。
けれどオリジナルのアニメやその時代へのリスペクト(『月とキャベツ』まで。。こっちのほうがそれで泣ける)まて入れ込んでフィルム撮影までしてという細かな気の使いようが、常にこれでいいよね、というざっくりしたテレビ監督の映画とは決定的に違う。
そしてよーく考えてみると大したことのないウジウジした話(当時ですらそう思ってた)を巨大なデートに耐えうる長編映画にカスタマイズできる構築力はは〜すごいな、と。だって本当に人が人をウジウジ思ってる話なので。特に種子島パートにそれは顕著で、もうまるごと森七菜の物思いポエムと言っていい。見どころはそういう各登場人物の悶絶、という。。
そんな具合にベタなキワキワを攻めていく中で小学生の別れパートが特にグッとくる。見ながらこれはほぼ『幸せの黄色いハンカチ』の再構築か、というような、まさにそんなとこに居るはずもない人がいる破壊力(展開は知っていても)。その破壊力ゆえに後年、居るはずもないところに彷徨ってしまう切なさ。まあぶっちゃけいろんな運命の糸演出はやりすぎだろと思ったりもするけれど、原作リスペクトと実写長編化で更にヒットまで目指そうという三重苦みたいなものの最適解を探す冒険に、このチームは勝っている気がする。
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