「心の奥底に眠る「忘れられない誰か」」秒速5センチメートル おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
心の奥底に眠る「忘れられない誰か」
■ 作品情報
2007年公開の劇場アニメ「秒速5センチメートル」の実写化作品。
監督: 奥山由之。脚本: 鈴木史子。原作: 新海誠。主要キャストは、遠野貴樹: 松村北斗、篠原明里: 高畑充希、澄田花苗: 森七菜、遠野貴樹(高校生): 青木柚、水野理紗: 木竜麻生、遠野貴樹(幼少期): 上田悠斗、篠原明里(幼少期): 白山乃愛、その他: 宮﨑あおい、吉岡秀隆。
■ ストーリー
1991年、感受性豊かな少年・遠野貴樹と、彼に似たところをもつ篠原明里は、互いに深く心を通わせる。しかし、明里の家族の転居により二人は小学校卒業と同時に離れ離れとなり、文通で関係を保つ。その後、貴樹もまた遠方へ転校することになり、物理的な距離は決定的となる。成長した貴樹は、新しい場所で出会う澄田花苗に好意を寄せられながらも、遠い明里への想いを引きずり続ける。彼は過去の記憶と現在の現実の間で葛藤し、心が宙に浮いたような状態から抜け出せずにいる。手の届かない存在への切ない憧れ、そして、埋められない心の隔たりがもたらす孤独と喪失感を、繊細な筆致で紡ぎ出す。
■ 感想
アニメ版『秒速5センチメートル』は、これまで気になりつつも未鑑賞のままなので、本作との比較はできません。でも、むしろそれでよかったと感じます。おかげで、何の先入観ももたずに、純粋にこの物語の世界に深く浸ることができたからです。
物語は、どこか他人と距離を置き、深入りを避けているように見える主人公・貴樹の過去を丁寧に辿っていきます。小学校で出会い、やがて互いに特別な存在となっていく貴樹と明里。二人がしだいに異性として意識し、惹かれ合っていく姿は、とにかく初々しく、微笑ましいの一言に尽きます。この清純さが醸し出す尊さこそが、本作の核であり、大きな魅力であると感じます。中でも、明里の転校後、栃木で再会を果たすシーンは、二人の切ない心情がひしひしと伝わってきて、非常に印象的です。幻想的な雪景色と相まって、その光景は神々しささえ感じさせるほどで、胸に深く刻まれます。まるで、現実とは異なる特別な時間が流れているかのような、美しい瞬間です。
しかし、その美しさゆえ、そこに囚われて動けなくなってしまった貴樹。そんな彼に対し、かつて貴樹を太陽だと語ったあかりが、今度はきっと貴樹の太陽となったのでしょう。貴樹が初めて自分の本音と向き合って、その思いを吐露するシーンは涙を誘います。彼もやっと一歩前に踏み出せたように思います。会って言葉を交わさなくても、互いの存在を感じ、かつての言葉を糧として前を向いて生きようとする姿に、胸が熱くなります。
私たちの人生には、映画やドラマのような劇的な出来事なんてめったに起きません。しかし、傍から見れば日常の一コマでも、その人にとっては一生忘れられないような出来事が、きっと誰にでもあるはずです。貴樹と明里の姿を見ていると、自分自身の心に強く残る瞬間を思い浮かべずにはいられません。
その思い出は、今の自分を形づくる一部になっていることに改めて気づかされ、そこに紐づく自分の心にいつまでも残り続ける人、人生に大きな影響を与えた人が思い出されます。そして、「あの人にもう一度会いたい」という切ない思いと同時に、「たとえ会えなくても、この思いは確かにここにずっとある」と、温かい気持ちで再認識させられます。人生でそんな大切な人と巡り逢えたことへの感謝の気持ちを、深く感じさせてくれる作品です。
おじゃるさま🙂
誤解を恐れずに言えば、18年前のアニメ版『秒速5センチメートル』の存在は、ある意味「初恋の人」なのではないかと思っています。
宮﨑駿監督が新海誠監督を認めたように、新海誠監督が奥山由之監督を認めていることが、何よりだと思います🫡
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。