「夫人設定がなくなったのかわからないが、ともかく道具になった兄ちゃんは可哀想に思えた」エマニュエル Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
夫人設定がなくなったのかわからないが、ともかく道具になった兄ちゃんは可哀想に思えた
2025.1.10 字幕 イオンシネマ京都桂川
2024年のフランス映画(105分、R15+)
原案はエマニエル・アルサンの小説『エマニエル夫人』
ホテル調査員が旅先で謎の男に翻弄される様子を描いたサスペンス系愛欲映画
監督はオドレイ・ディワン
脚本はオドレイ・ディワン&レベッカ・ズロトブスキ
物語は、香港に向かう機内にて、男を誘惑するエマニュエル・アルノー(ノエミ・メルラン)が描かれて始まる
男(ハリソン・アレヴァロ)はエマニュエルの誘いに乗ってセックスをして早々に果てていた
事が終わり、席に戻ろうとしたエマニュエルは、一部始終を見ていた謎のアジア人(のちにケイ・シノハラと判明、演:ウィル・シャープ)の視線に心を震わせた
その後、香港に到着したエマニュエルは、スイートルームに案内され、客のふりをしながらホテルの実地調査に入った
ホテルの支配人マーゴ(ナオミ・ワッツ)は普段通りに業務をこなしながら、着任から行ってきた改革を自慢げに話す
エマニュエルは特に問題がないと上司(Alexander Terentyev)に報告するものの、本社はマーゴを評価しておらず、何かしらのウィークポイントがないかを引き続き探すように命じた
その後、エマニュエルは監視室に行き、監視人(アンソニー・ウォン)からホテルの様子を聞き出す
彼は従業員の全てを把握し、常連客にも精通していた
そんな折、エマニュエルはプールで男漁りをしている女性ゼルダ(チャチャ・ホアン)に興味を持つ
監視人は彼女が男を離れに連れて行っていることを知っていたが、それはホテルが黙認しているものだった
そして、そこで何が行われているのかに興味を持ったエマニュエルは、密かにゼルダを追った
彼女は行きずりの男とセックスをしていて、エマニュエルが見ていることに気づくと、さらに行為をエスカレートさせていった
この一件からゼルダとの距離を詰めることになったエマニュエルは、彼女の奥深い欲望に驚きを隠せない
また、監視室から機内の男を見つけたことで、エマニュエルの中で何かが弾けていった
男はケイ・シノハラと名乗り、ダム開発の実地調査をしているエンジニアだと答えた
彼はホテル暮らしが嫌いだが、会社に金を使わせることで存在感を示しているという
そして、夜は街の繁華街に繰り出し、そして朝になると戻るという生活を繰り返していた
映画は、かつての名作をリメイクしているものになるのだが、どうやら「夫人」ではなくなっているように思えた
映画内でエマニュエルの家庭関係について言及されないし、いきなり機内から奔放なセックスをしているので、「若妻が色々吹き込まれてヤバい世界に入っていった」という原作っぽさはないように思う
この改変がどう評価されるかはわからないが、行きつく先を描きたかったと思うので、どっちでも良いのかなと感じた
物語は、ケイとの関係を渇望するエマニュエルがヤバい世界に入っていくのだが、それは単なる舞台装置のようなもので、フェンウィックと呼ばれる謎の店もただの闇賭け麻雀店だったりする
その後、エマニュエルは繁華街を案内してもらい、アフリカンバーに辿り着くのだが、そこにいた彼女を気にいる男(Kochun Tse)を道具扱いにしてケイと擬似セックスをするというのは笑いどころのように思った
道具は道具で、精神的にケイとセックスをしているというもので、これはかなり特殊な性癖であるように思う
結局のところ、エマニュエルにとっての快楽は道具ではなく精神性というところに行き着いていて、冒頭の機内の男を含めた単なるセックスでは満足できないということなのだろう
彼女が絶頂に至るのは、ケイを妄想して自慰行為に耽っているところなのだが、本当の絶頂は道具が入っていないと満たされないとも言える
それがケイのものであるかどうかよりも、その道具越しに理想のモノを想像しながらセックスする方がより快感を得られるというものなのかもしれない
いずれにせよ、あまりにも特殊な世界なので、単なるエロ目的で鑑賞しても意味がわからないと思う
確かに体を張ったシーンは多いのだが、そう言ったところにあるエロさよりは、ケイに向ける眼差しの方がエロい
また、ケイの焦らしプレイも特殊で、エマニュエルが「自分の話(快楽)」のことをするまで容赦なく問い詰めていくのも面白かった
言葉責めのケイと、妄想快楽主義のエマニュエルの組み合わせには媒体が必要なのだが、その媒体は単なる快楽主義で放出できれば良いだけの道具の方が望ましい
そう言った観点で観ると、二人の性癖は残酷なものを生み出してしまうのかなと思った