「男たちの九龍城砦」トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
男たちの九龍城砦
80年代は香港アクションの全盛期だった。ブルース・リーのスピリッツを受け継ぎ、サモ・ハン、ジャッキー、ユン・ピョウが躍進。ジェット・リー(当時はリー・リンチェイ)やドニー・イェンも拳を振るう。
また、ジョン・ウー×チョウ・ユンファ『男たちの挽歌』のヒットで香港ノワールも確立。ジョニー・トー監督作や『インファナル・アフェア』など美学を謳う。
80年代以降も90年代や2000年代に入ってからも気を吐き、今新たに金字塔になるであろう作品が建てられた。
当初はさほど関心無かった。バリバリのアクション映画なのに、アカデミー国際長編映画賞香港代表選出に、何で?…ってくらい。
本国香港では記録的な大ヒットとなり、日本でもロングランヒット&大評判。香港アクション×ノワールに少なからず洗礼を受けた身としては、非常に気になってきた。
実際に見たら、迫力のアクションに漢たちの胸熱いドラマ…。
メチャクチャ面白れーじゃねぇか!
何かで見たり聞いたりした事はあったかもしれないが、“九龍城砦”について詳しく知らなかった。
かつて香港にあった巨大スラム街。
その歴史は旧く、960年の宋時代から。海賊防衛の要塞として建てられた。
イギリス植民地、日本軍占領、中国との関係など香港の激動の歴史の中で、居住区域として肥大化。
そう広くない土地の中に、家屋や商店が所狭し。超人口密集地でもあった。
日本で言ったらスラム街ではないが、軍艦島のよう。『攻殻機動隊』や『ブレードランナー』など裏繁華街のモデルや様々な作品に影響も。
中国返還をきっかけに、1993年に解体。
それまで訳あり者、流れ者、犯罪者までも行き着き住み着いた。
そこにまた、もう一人…。
香港に密入国してきた男、チャン・ロッグワン。
身分証欲しさに黒社会の大ボスが主催する賭け試合に出場。が、騙され、いざこざを起こし、追われる身に。
辛くも逃げ込んだのが、大ボスの支配が及ばぬ九龍城砦であった…。
しかし、ここでも招かれざる者。またまたいざこざを起こす。
追われ、理髪店に逃げ込み、店主を人質に取る。ところが、店主に一発KO。
ただの理髪店主ではなかった。かつては黒社会にも名を知られ、今は九龍城砦のリーダー的存在のロンギュンフォン。
トラブルの元になる事から出ていけと警告される。
他に行き場が無いロッグワンは様々な仕事をして僅かながら金を稼ぎ、路地裏などで寝泊まりし、いつしか住み着くように。
そんな彼の姿に、住人たちも受け入れ始める。
ある時城砦内で起きた婦女暴行死事件の犯人“お仕置き”に貢献した事から、ロンギュンフォンはロッグワンの中に実直さを見る。ロッグワンを認め、ロッグワンもロンギュンフォンの何より住人の安住を守る温情とカリスマ性を尊敬するように。
ロッグワンの他にも“お仕置き”しようとした面々が。
ロッグワンが城砦に来た時彼を追った男。ロンギュンフォンの右腕で、ソンヤッ。無骨だが、腕のいい医者セイジャイ。黒社会と往き来するサップイーシウ。
彼らと親交を深め、ロッグワンはここで人間性と居場所を見つけ…。
何と言っても圧巻は、10億円を掛けて造られた九龍城砦の巨大セット。
乱雑に建ち並ぶ家屋、店。迷路のように混雑し、窮屈さを感じる。
様々なものが混じった汚さや臭いすら伝わってきそう。
そんな中でも多くの人々が暮らし、本当にここに住んでいるような生活感たっぷり。
叉焼飯が美味しそう。日本カルチャーも。まさかこんな所で田原俊彦の名を聞くとは…。
異国の知らぬ者でもリアリティーを感じ、当時や九龍城砦を知る香港の方から見ればその再現度に驚くのでは…?
そこで繰り広げられるドラマは、ベタながらも王道。
他者とも上手く関われず、行き場も無く、人生という道に混迷。人生も自分自身も荒れていた。
流れ着いたここで居場所を見つけ、人と繋がり、必要とされていく。自身も穏やかになっていく。
西部劇や時代劇の設定や主人公のような、古今東西の定番。だからしっくり来るのかな…?
レイモンド・ラウが熱く演じる。
親交を深める3人もいい。4人で犯人にお仕置きする様はちとやり過ぎだけど、その後4人で交わした麻雀。終盤、また巧く活かされる。
MVPはルイス・クーだろう。あの渋さ、カッコ良さ、懐深さ、カリスマ性に男なら惚れる! あんなイケシブオヤジに…って思うのがそもそも無理なくらいの魅力。
また、サモ・ハンも嬉しいくらいまだまだ健在。
安住の地に辿り着き、そこで新たな人生を…だったら、それも悪くないが、ヒューマンドラマ。
本作はかつてを継承する香港アクション×ノワールなのだ。
思わぬ運命と魔の手が襲い来る…。
ロッグワンはロンギュンフォンの旧友に会う事に。
九龍城砦の地主の一人で、ロンギュンフォンと義兄弟のチャウ兄貴。
黒社会のボスの一人のタイガー兄貴。サップイーシウは彼の部下。
ロンギュンフォンと二人は固い絆で結ばれていた。
九龍城砦の伝説にもなっている過去のある闘い…。
かつて黒社会を牛耳っていた支配者がいた。
その配下の“殺人王”チャン・ジムに多くの者が殺され、チャウ兄貴の妻と子供も…。
チャウ兄貴は囚われ、タイガー兄貴は片目を潰され、窮地。
チャン・ジムと闘い、倒したのが、ロンギュンフォン。闘いの激しさの名残りは今も九龍城砦に…。
仇はロンギュンフォンが取ってくれたが、チャウ兄貴の悲しみ憎しみ恨みは今も消えない。
チャン・ジムに息子がいる事を突き止める。
情報網を駆使して見つけ出した仇の息子は…。
すぐ予想は付いた。出生も不明だったし。
そうではない事を願ったが、そうでなければ話は盛り上がらない。
チャン・ジムの息子であったロッグワン。
本人は全く知らない。父親に会った事もない。唯一の過去の記憶は、母親と各地を転々した事だけ。
復讐に燃えるチャウ兄貴とタイガー兄貴。手下を送り込む。
ロッグワンを逃がそうとするソンヤッたち。
ロンギュンフォンは庇いもせず、引き渡そうともせず。立場上、中立を保っているようにも…?
追っ手に阻まれ、抗戦。
チャウ兄貴もかつてはカンフーの使い手として名を馳せた。その復讐の拳がロッグワンに炸裂する。
負傷し、ピンチ。仲裁に入ったのが、ロンギュンフォン。
考えてみれば、チャウ兄貴の復讐の相手はチャン・ジム。本人ならまだしも、幾ら血筋とは言え、当人も知らなかった息子に憎しみをぶつけるとは…。
悲しみ恨みは同情するが、息子には何の罪も無い。老醜のおぞましさ。
それを代弁してくれたロンギュンフォン。上の世代の事だ。
しかしこれにより、ロンギュンフォンとチャウ兄貴の間に亀裂が…。
そこに絡んできたのが、大ボス。
兼ねてからロンギュンフォンと訳ありで疎ましく思い、さらに九龍城砦をも我が物にしようと企む大ボス。
チャウ兄貴と取引。ロッグワンを殺せば、九龍城砦やロンギュンフォンの地位をくれてやると。
大ボスとチャウ兄貴が結託。
ロンギュンフォンたち九龍城砦は孤立。
タイガー兄貴はどっちに付くか…?
親交を深めたソンヤッたちは分かるが、何故ロンギュンフォンは結果的にロッグワンを庇うように…?
ここにも意外な過去。ロンギュンフォンとチャン・ジムは親友であった。
チャン・ジムから、自分に何かあったら妻と産まれたばかりの息子を頼むと託されていた。
何という数奇な運命…。ちょっと作り過ぎてもいるが、映画的にはドラマチックこの上ない。
遂に決戦の時。
ロッグワンはまだ動けず。ロンギュンフォンとソンヤッたち対大ボス&チャウ兄貴連合。
タイガー兄貴は…。サップイーシウの判断に任す。サップイーシウはロンギュンフォンたちの元へ。
死闘。その中で倒れる者も…。
まさかのロンギュンフォン…!
実は病魔に犯されていたロンギュンフォン。これまでで最も激しい吐血を…。
大ボスの部下のウォンガウの狂刃が…。しかも、ソンヤッの目前で…。
全てを託されたソンヤッは、ロッグワンや同志と共に九龍城砦を脱出。
散り散りとなり、ロッグワンは診療所へ。
療養時、ロッグワンは身分証を手に入れ、自身の本当の出生も知る…。
数ヶ月経ち、ロッグワンは回復。ソンヤッたちを訪ねる。再会を喜ぶ。
4人が集まったら、まず…。麻雀!
そしてもう一つ。弔い合戦。ロンギュンフォンの復讐と九龍城砦を取り戻せ!
その頃、九龍城砦でも下克上が…。
チャウ兄貴までも手玉に取り、九龍城砦の全てを手に入れた大ボス。
このまま大ボスの支配下になると思いきや、ウォンガウが大ボスを殺し、九龍城砦の覇権を取る。
クレイジーな性格のウォンガウ。彼の支配によって九龍城砦は修羅場に。
そんな九龍城砦の人々の間で、噂が…。ロッグワンが戻ってくる。
そしてロッグワンと同志たちは戻ってきた。
これが本当の最終決戦。男たちの闘いが始まる…!
てっきりロンギュンフォンたちの過去の因縁や大ボスとの決着かと思いきや、若い奴らへ。しっかり世代交代。
俺たちで終わらす。そう誓うロッグワンたち。
意外性を付いたラスボス、ウォンガウ。クレイジーな性格もさることながら、気功で身体を硬直させる事が出来る特異体質。銃も刃も効かない。
もはや漫画! いや確かに原作小説があって、漫画になって、映画になって。
トンデモだけど、しっかり面白けりゃあいい。
さあ、怒涛のアクションを魅せてくれ!
かつてアジアで、韓国や日本より誇った香港アクション再び!
アクション、アクション、アクション! 迫真のアクションの連続。
バイオレンスも含め、アクションの醍醐味をたっぷりこれでもか!…と魅せてくれる。
そのアクションを請け負ったのは、谷垣健治。
ロンギュンフォン世代は伝統的なカンフー、ロッグワン世代は何でもありのバトルアクションで違いを付けたという。
また、音楽は川井憲次が担当。OP曲を聞いただけで、あ~川井節!
日本から“Wケンジ”が参戦した事も誇り。
アクションと胸打つ熱きドラマを描いたソイ・チェン監督の手腕も見事。
世界に見せ付けよ! アジアン・アクション・パワー!
闘い終わって、九龍城砦に再び平穏が訪れた。
しかし、それは一時に過ぎない。
新たな脅威との闘い…? いや、それ以上。決定した九龍城砦の解体…。
住人たちはどうなるのか…? 同志たちやせっかく安住の地に辿り着いたロッグワンは…?
その哀愁も響く。
これ一本でも大満足だが、だけどまだ見たい!
そう思っていたら…、
香港アクション×ノワールの伝統に習い、シリーズ化が決定! 前日譚と後日譚が製作されるという。
前日譚はロンギュンフォンたちの過去を詳しくかな…?
後日譚は九龍城砦解体に直面したロッグワンたちかな…?
期待高まる。まだ終わらない。新たな伝説の始まり。
男たちの九龍城砦。