名もなき者 A COMPLETE UNKNOWNのレビュー・感想・評価
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言葉の魔力と音楽の進化
映画はディランのデビューから、名曲『ライク・ア・ローリング・ストーン』を収録したアルバムを完成させるまでの約3年半を描いている。
興味深かったのは、若きディランの姿だ。彼が入院中の先輩ミュージシャン、ウディ・ガスリーを訪れて歌う冒頭シーンは特に印象的だ。ガスリーと付き添いの音楽家ラム・ブランクに才能を見出される姿は、ガスリーに憧れて、真摯にフォーク音楽に向き合っていたディランの原点を見せてくれる。
また、ディランにもレコード会社の意向で最初はカバー曲を歌う時代があったことや、スターとなっていくにつれて恋人との関係がうまくいかなくなる。互いの才能を認め合ったジョーン・バエズとの関係性が、売れない時代からスターになった後まで描かれ、成功がもたらす人間模様の変化を巧みに表現している。
「フォーク界の救世主」のように持ち上げられながらも、エレキサウンドを導入した途端に観客から猛烈なブーイングを受けるシーンは衝撃的だ。だが彼はそれを音楽の力で乗り越え、ファンを納得させていく。ジャンルを壊すことによって新しい表現を切り開く、ディランの姿が描かれていた。
字幕のおかげで初めてじっくりと味わったディランの歌詞は、まさに「言葉の魔力」だった。ノーベル文学賞授賞者の歌詞の魅力が日本語字幕で、初めてじっくり味わうことができた。
ファンの中には「なぜあの詩は自分ではなくディランに降りてきたのか」と嫉妬する者もいるという。それは共感が深ければ深いほど、自分の気持ちの代弁者への複雑な感情が湧くことを示しているだろう。
ボブ・ディランという稀有なアーティストの魅力と、彼を取り巻く時代、音楽、そして人々の心情を見事に捉えた作品だった。
ティモシーの圧巻のパフォーマンス!
公開週は時間がとれずに観に行けなかったので、1週間遅れで鑑賞してきました。みなさんのレビュー評価が高く、そこそこ期待していたのですが、確かに主演のティモシー・シャラメの演技は圧巻でした。
ストーリーは、1961年、憧れのミュージシャンであるウディ・ガスリーの病気入院を知り、その見舞いのために単身ニューヨークを訪れた若きボブ・ディランが、そこでウディの傍にいたピート・シーガーにその才を認められ、演奏の場を与えられ、女性フォークシンガーのジョーン・バエズを始めとする多くの音楽関係者との交友関係を広げて世間の注目を集める存在となる一方、恋人のシルヴィとも出会い、まさに順風満帆の日々を送っているようにも見えたが、世間や周囲の人々が自身に求めるイメージと自分の思いとのギャップに苦しみ、追い詰められていく姿を描くというもの。
無名だった若きボブ・ディランがどのようにして脚光を浴び、その中でどのような思いを抱いて歌っていたのかが、なんとなく知れたのはよかったです。有名になればなるほど、世間が抱くイメージが固定化し、それを求められ、自身の思いとのズレに戸惑い、苦悩するというのは、よくあることのように思います。そもそも特定のイメージや方向性を決めてプロモーションしているので、それは当然でしょう。そこにアーティストの本音が介在していないことに問題があるように思いますが、売り出す側も利益を上げなければならないので、どちらが悪いということもないように思います。
そんな苦悩を抱えたボブが、プライベートではシルヴィを、ステージ上ではジョーンを傍に置いて、バランスをとっているようにも見えました。二人の女性に対して、それぞれ異なる大切な何かを、ボブは求めていたのかもしれません。しかし、ボブが求めるものも、彼の置かれている状況によって変化し、結果として二人の女性を振り回してしまっているようにも見えました。
とはいえ、当時の社会情勢をよく知らないので、民衆が何を求め、彼に何を期待し、ボブがそれをどう受け止めていたのかは、イマイチわからなかったです。また、アメリカの音楽に疎く、知らない歌手と歌ばかりで、そこまで郷愁を誘われるわけでもなかったので、作品世界に没入するまでには至りませんでした。このあたりの事情に明るい方なら、本作はかなり楽しめたのではないかと思います。自分の教養のなさがうらめしいです。
それでも、ふんだんに取り入れられた歌唱シーンと、その中で俳優たちが魅せる圧巻のパフォーマンスには驚かされます。いったいどれほどの練習を重ねて本番に挑んだのかと、プロの矜持をまざまざと見せつけられた思いがします。これだけでも本作を鑑賞する価値があるというものです。
主演はティモシー・シャラメで、ボブの変容とともに魅せるステージパフォーマンスが秀逸です。脇を固めるのは、エドワード・ノートン、エル・ファニング、モニカ・バルバロ、ボイド・ホルブルックら。
浅草キッド
シャラメは現代のジェームス・ディーンか?
生きる伝説ボブ・デュランを始めて描いた素晴らしい映画
伝説の歌手の若い時に売れるまでの様子を描いた映画ですが。
音楽やアメリカの歴史を知らないと、良く分からない部分もありますが。
デュランは最初は田舎の州の出身なので、フォークソングから出発したのですが、音楽の機材の変化とカウンターカルチャーと呼ばれる時代の変化と共にやがてロックに目覚めて、周りの批判を受けても、ロックを演奏する最後は良かったです。
史実に基づいているので、女癖が悪いのも人間的でした。
しかも当然、デュランの名曲をたっぷり使った音楽映画になってるし。若手では最も売れてるティモシー・シャラメも演技も今までの映画で一番、上手かったです。
これは素晴らしい映画でした。
字幕付きでディランの曲を。
ディランの曲は少しは聴いたことがあり、映像は「ポップスが最高に輝いた日」で観たくらいで、あまり人と交われない感じの人に思えた。
歌詞の意味など調べたこととかなかったけど、字幕付きで曲を聴いてみると詩の素晴らしさに驚きました。終わるまでにそんな感じで何曲も聴けたけどもっと聴きたくなりました。当時は戦時下でもあり音楽が心の拠り所だけではなく政治や宗教的な意味合いもあり、批判や葛藤の最中でこの曲たちが生まれたのは本当に彼が天才なのだと理解できました。少し調べてみると作詞に影響を受けた詩人にランボオと書いてあり、この前観た「ゆきてかへらぬ」の中原中也もそうだったので少し嬉しくなったし、ランボオすげ〜って思いました。
圧倒的な時代の風の再現力に感嘆する
なんだかずっと夢の中にいるかのような、途切れぬ時代の空気を吸い込めるような幸せ体験が続く。一応ニューポートのあれやこれやは知っているくらいの知識だけど、誰かが誰かに出会っていくシーンの美しさったらない。そしてよくティモシーシャラメに頼んで、それを引き受けたよな、と思いつつ、見知ったあのジャケットらが地続きで出てくる時代の再現力はやはりアメリカ映画だな。素晴らしい。冒頭からガツンと掴まれる。
曲と曲の間、作曲とレコーディングとパフォーマンスと、マストな情報をとてもうまく詰め込んでいく。と言いつつ、めちゃくちゃいいのだけど、主人公がなんせボブディランで雲を掴むような謎の男なので、エルファニングには共感できても、ななかなそこは掴みきれないのは確か。めちゃくちゃ出来はいいと思うのだけど、『アノーラ』のぶっちぎり感とは真逆の職人芸の尊さを感じつつ、またとても満足できるけど若干何か物足りなさもあるという。
ギターまた始めようかな
映画館で観た日の夜、NHKの『有吉のお金発見 突撃!カネオくん』がギターの特集だった。そういえば、われわれ世代がミドルティーンの頃に吉田拓郎がデビューしたりしており、猫も杓子もギターを持っていた。
ボブ・ディランが肩で風を切っていた1960年代初頭は、私はまだ小学生。農村で暮らしていたし、家にテレビもなかった。ラジオから流れてくるのは歌謡曲ばかり。だから本物のディランについて語るべき何も持っていない。ティモシー・シャラメの歌う様子がディランに似ていると話題だが、残念ながら、この映画によって、シャラメの歌声が私にとってのディランになってしまった。
字幕で表示される歌詞がいちいち刺さる。時代背景と切り離せない内容ではあるけれど、当時小学生の私が聴いても何の感慨も抱かなかったろう。今だからこそ刺さる。今も戦争や圧政が絶えない時代だから、刺さる。
ピート・シガーの心情に共感。ディランを見出した彼だが、やがてディランは彼と袂を分つ。この映画はその過程を描いたと言っていいかも知れない。エドワード・ノートンの演技は、ピートの人の好さをとてもうまく出せていたと思う。
ジョーン・バエズを演じたモニカ・バルバロの美声に驚いた(もしかして口パク?)。どこかでみた俳優さんだなと思っていたら、『トップ・ガン マーヴェリック』に出てたのだった。
バエズを最初に聴いたのは『死刑台のメロディ』のエンドテーマ『勝利への讃歌』。その後に、『花はどこへ行った』という反戦歌を歌っていたことを知った。バエズの『風に吹かれて』を探したけどライブ音源のしか見つからなかった。カバーしてないのかしら。
さっきも書いたけど、私は「団塊の世代」から十年遅れの世代なので、学園闘争も反戦運動も知らない。しかし同世代はみんなギターをかき鳴らしていた。それらは、ディランやバエズがいたから起こったことなのだと思う。
カントリーベアシアター...
映画を観る前に、数日間ボブディランを聴いてから鑑賞しました。ティミーが歌って弾いて、本当に素晴らしいと思いました。IMAXの音響効果も活かされていました。
想像よりも歌が多かったです。
ただ、ボブディランやその周りの歌手について全く知識がなく、誰が誰だかわからなかったです。
前半はディズニーランドのカントリーベアシアターのように感じました、、、本当にティミーには申し訳ない気持ちです。
変化と成長する文化
音楽映画は大好物。しかもボブ・ディラン。噂に聞く、ディランがエレキギターを持った伝説のLIVEをクライマックスに、若き日のディランを描く。
ティモシー・シャラメが余りにもディランで驚く。もう、ディランにしか見えない。
音楽はいつも成長し変化していく。そんな中「最近の音楽は…」いつの世も大人はそう言う。そんな大人になりたくないと思いながら、既に初老😰
今一度、ディランに問いかけられた気がした。
そしてディランはこの後、「風に吹かれて」のディランから「ライク・ア・ローリング・ストーン」のディランになってしまう。世の中そんなもの。
しかし、そんな事は関係なく、良いものは何時の時代も良いのだ!
#名もなき者
#ボブディラン
当人にしか踏み込めない領域
革新と保守
ギター1本のフォーク弾き語りから、エレキギターをかきならす姿に葛藤と革新を感じた。しかし、最後にはフォークも披露し、過去の自分も否定していないところが良かった。カッコいい生き方
伝記映画としては★★★★★ディランのファンとしては★
デューンシリーズで見ていたシャラメが有名でもありノーベル賞に代表されるように
生きる伝説として評価されているディランをどう演じるか期待していた。確かに歌も演奏もディラン本人の録音を使ったのかと思うほど似せてきており、おそらく容貌や話し方などもそっくりに仕上げてきたという意味ではデューンと全く異質な役柄を見事演じきったシャラメの演技は流石というしかない。
ただ、かつて遠い昔にディランのアルバムをレコードで買って、カセットテープに録音、ウォークマンでくりかえし聞いていた身からすれば、ごくごく表面的な部分に軽くふれたに過ぎないなの印象が残った。
そしてディランの素晴らしさは彼の創作なかでも詩の素晴らしさにあると思うのだがどうやってあの音楽が生み出されたかについては触れられることはなく消化不良感が残った。というか彼の反戦歌を期待して集まったファンを前にあえてそういった歌を歌おうとしないディランに対してはA complete Unkownの真逆でA complete Well-known は「完全なる有名人」としての振る舞いであって残念な気持ちが強かった。ミュージシャンとしてはお金を払って時間の都合をつけて集まったファンの期待を裏切るような事をするのはもってのほかだろうと思うが、ディランが歌いたがらないのを知りながらフェスに呼んで反戦歌を歌わそうとするピート・シガーやら、その曲はしたくないというのを無理矢理に「風に吹かれて」をデュエットするジョーン・バエズについてもシンガーとして尊敬していたのがちょっと嫌いになりました。その「風に吹かれて」がエンドロールで流れるあたりもブラックジョークかよと思いました。
名もなき者という意味ではシルウ”ィ・ルッソとして登場したジャケット写真にもなった女性のその後であったりが気になりました。にしてもあのジャケット写真幸せそうで見ているだけで暖かい気持ちにさせてくれます。
聖人君子でもなんでもないディランやその周りの伝説のシンガーたちをありのままに描いたという意味では良いできだと思うのですがディランのファンだっただけに後味の悪さが残りました。
名もなき天才ミュージシャンが世に認められて有名シンガーになる
...話です。
天才なので音楽が進化していくし、若者の心や言動は経験と成長と共に変化していく。元々、「我が道を行く」タイプの天才なれば、周りの期待する姿やパブリックイメージとのギャップはストレスやトラブルの元になり...。
わかるんですが、それをボブ・ディランを主人公にして描いただけ?という感じでした。結構短い期間の話で、これといって"事件"は起きないし、ドキュメンタリー感は薄い。ボブ・ディランってこんな人だったんだ〜的な。
60年代前半のアメリカの空気(キューバ危機とか)やフォークミュージックシーンの雰囲気がなんとなく伝わるリアル感は良かったです。ただ、リアルすぎたかもしれません。"あのウッドストック"より何年も前の、(現代の感覚で言うと) "わりとこじんまりとした" ニューポート・"フォーク"・フェスでエレキを弾きまくったステージのインパクトが観ていてよく分からないままでした。(元々知っている人には分かるんでしょうけど。) カメラがすごく狭い現場の空気を切り取っているシーンだから、出来事が客観的につかめない
元々ボブ・ディランのことをよく知らず特に思い入れもないので、ティモシー・シャラメさんが見事な完コピをキメても、報道で聞いていた以上の「へぇ~!?」にはなりませんね。「確かにすごくそれっぽいね〜」って感じでしたけど
そんな訳で、(大変申し訳ないんですが) 中盤で一瞬ウトウトしてしまいました〜
観たあとで思い出したのは、ぜんぜん違うジャンルですが、Yesterday (2019)。「ザ・ビートルズ」が存在しない世界で彼らの楽曲を歌う駆け出しミュージシャンが一躍脚光を浴びる、というファンタジー映画です。
このお話では、ビートルズの(正確にはジョンとポールの)「楽曲の力」が何の説明も必要なく、(実名出演のエド・シーランを含む)登場人物と、そして映画を観ているコッチ側の心にもハッキリ響く、という"奇跡"が起きて、それが作品の核となっていました。
別にビートルズファンでもないんですが、誰が演奏しても価値が下がらないのが普遍の芸術。モーツァルトの演奏を生で聴いた現代人はいませんが、作品の価値は音符の中にある、って訳ですね
残念ながら、この映画を見ていて同じような"奇跡"は起きませんでしたね (Native English Speakerじゃないから、ノーベル賞レベルの「文学の力」を感じることができないだけかもしれませんが...)
何を勝ち取った?
歌が素敵すぎる
開拓者は常に変化し続ける
熱演は間違いないけれど。
出演者自身がきちんと演奏して歌唱もしている、という熱演っぷり。
ただ物語としては無名の若者が功なり名を遂げるというだけ。
アコギからエレキに持ち替える事がクライマックスだとなんともね。
ただ、個人的にはダミ声の歌手の時代しか知らないジョニーキャッシュのカッコいいことといったら!
シャラメのステージシーンよりキャッシュの登場カットが印象に残っていたりします。
ディランのメンターの一人ということなのでしょうがガスリーよりターニングポイントになってるように見えたかも。
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