「フォークとロック」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN 山の手ロックさんの映画レビュー(感想・評価)
フォークとロック
ボブ・ディランがニューヨークに現れ、フォーク界の寵児となってから、伝説のニューポートでのロック転向までが描かれる。
主演のティモシー・シャラメの歌とギター、ハーモニカの実演がとにかく素晴らしい。ボブ・ディラン初期の名曲がふんだんに聴けて、音楽映画としての満足度は高い。
ただし、こうした伝記物では、隠された創作の秘密や苦悩といった部分に興味をそそられるものだが、本作では、恋人をはじめ出会った人たちがみな、彼の才能に圧倒されるばかりで、種明かし的な趣向がないのに物足りなさを感じるところ。
それにしても、今考えると、あの時のニューポートの観客はなぜあれほど反発したのだろう。劇中でも歌われていた「ミスタータンブリンマン」や「悲しきベイブ」が既にロックバンドにカバーされてヒットして、ボブ・ディランとロックの親和性の高さは認知されていたのではなかったのだろうか。
ピート・シーガーが語っていたように、少しずつ培ってきたフォークへの注目を一気に広げるスターが出現したからこその裏切られた思いということか。ビートルズを中心として勃興するロックへの引け目もあったのだろう。
ザ・バンドのファンとしては、あの後の非難轟々のヨーロッパツアーの模様も観てみたかった。
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