劇場公開日 2025年2月28日

「これはディレクションミスでは?」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN moviebuffさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5これはディレクションミスでは?

2025年3月27日
PCから投稿

まず最初に一番感動したところ。The Times They Are A-Changin'のライブシーン。なぜかというと、あの時、世界の若者たちは自分たちの力、そして音楽で社会を、政治を本当に変える事が出来ると純粋に信じることが出来ていた。残念ながら、今の我々はそれを心の底から信じる事は出来ない時代に生きている。だからこそ、ディランがあの曲を歌いだした時、大きな合唱のうねりになっていく様子はあの時代の持つ純真な精神のピークがあそこに映し出されているようで感動したし、それこそがボブディランの歌の凄さなんだと思った。ちなみに、後半の有名なエレキギター論争のパートは最早ロックというジャンルがポップミュージックの中で影響力を失いつつある現代では、「事件」としての意義は少し前の時代よりも薄まってしまっていると思う。

さて、間違いなくしっかりとした作りこみの作品なんだけど、伝記映画としては、A COMPLETE UNKNOWNというタイトルからわかる通り、ディランの内面を描かないというディレクションにしたことの弊害が出ていると感じた。描かないにしても、ディランがそのような神話的な存在、自画像をいかにして作り上げていったかは見せるべきではなかったのか?

ティモシーをはじめ、役者さんたちは本当にがんばっていて、歌もすばらしいんだけどディランが何者かを掘り下げないと、順番に歴史上のチェックすべきイベントをただただ見せていく、お金のかかった再現VTR映像にしかならないし、実際そうなってしまっている面もあると思う。

あと、最後ディランじゃなくて、ティモシーが歌ってるのをエンドクレジットで流すのはどうなのかな?著作権の問題とかあるのかもだけど、映画で積み重ねてきたストーリーを経て、最後歴史的意味を噛みしめながら劇場でディランの本当の音源を大音量で聴けるチャンスなのに。そこらへんにもなんか「どうです?がんばったでしょ?」感が出ていて学芸会的なのよね。

自分はこの時代のディランのアルバムは全て持っているが、ジョーンバエズ以外のフォーク界の人達とディランのつながりにうとかったので、そこらへんがわかったのは興味深かったけど。ただディープなディランファンの方からしたら、そこらへんも知ってる話しか出てきてないんだろうな・・とにかくこの映画をきっかけに色々フォークのアーティストも調べてみようと思う。

moviebuff