劇場公開日 2025年2月28日

「偉大な音楽家誕生の瞬間」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN kozukaさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5偉大な音楽家誕生の瞬間

2025年3月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

ボブ・ディランのファンでもなく、60年代のフォークソングに興味があるわけでもない。
鑑賞の目的は今をときめくティモシー・シャラメがボブ・ディランをどう演じたのかに興味があることと、名将ジェームズ・マンゴールドが監督だから。
演奏も歌もシャラメ本人が演じたボブ・ディランはあえて似せようとはしていないが、時代を先取りするカリスマを圧巻の演技でシャラメ流のディランに昇華していた。
なのに、映画全体を通して心が揺さぶられるものがない。なぜだ。
映画はボブ・ディランの伝記映画ではなく、19歳の青年が故郷を離れ、ギター片手にニューヨークにやってくるところから、才能を認められ天才フォーク歌手として成功するが、フォークのレッテルに嫌気がさし、65年のニューポート・フォーク・フェスティバルで禁断のエレキギターをかかえ「ライク・ア・ローリング・ストーン」を歌い、会場の大ブーイングを受けながらも歴史的パフォーマンスと称賛され、時代が移り変わる、というおよそ5年間を描いている。
個人的ではあるが、登場する当時のフォーク歌手ピート・シーガーもジョーン・バエズもジョニー・キャッシュも知らない。
ディランのこの頃の曲はどれも名曲でよく知っているが、あまりにスタンダードで当時のフォーク界においてどれほどの衝撃を持って迎えられたかの実感がまるで無いのだ。
また、ディラン本人がそういう人なのかわからないが、曲作りの苦悩や人間関係の苦悩などはまるで描かれない。
恋人のシルヴィ(エル・ファニング)や恋仲にもなるフォーク歌手バエズ(モニカ・バルバロ)もいつの間にか部屋にいたり別れたり、復縁したり経過は描かれない。
実話の音楽映画と人間ドラマの両立はなかなか難しいのは過去の音楽映画をも然りだが。
ただ、本当に20世紀を代表する音楽の天才は人間関係は苦手なのかもしれない。

kozuka