「心が波立つような、不思議な揺れるまなざし。」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN Mr.C.B.2さんの映画レビュー(感想・評価)
心が波立つような、不思議な揺れるまなざし。
3月12日(水)
骨折した右手小指はまだ付かない。右手小指に当て木をしていると不便でしょうがない。やっと「名もなき者」をTOHOシネマズ日比谷で。
私は、ボブ・ディランよりサイモンとガーファンクルを聴いた。B・ディランのコンサートには行った事がないが、 S&G は1982年の後楽園球場!へも、2009年の東京ドームへも行った。
本作でも描かれていたように、1960年代には新人はトラディショナルな曲のカバーでデビューした。ボブ・ディランも例外ではない。ファーストアルバム13曲中ディランのオリジナル曲は2曲のみで「プリティ・ペギー・オー」や「朝日のあたる家」等をレコーディングしている。(映画中ではジョーン・バエズが「朝日のあたる家」を歌っていた)
S&Gもファーストアルバム「水曜の朝、午前3時」では12曲中P・サイモンのオリジナルは4曲のみであり、ディランの「時代は変わる」(この映画でも歌われている)や「ペギー・オー」をカバーしている。デビュー時にはディランの曲をカバーしていた S&G だったが、B・ディランが「ボクサー」をカバーして自身のアルバムに入れた時、S&Gファンの私はB・ディランに並んだと思った。
あれ?俺は何を書いているんだ?閑話休題
アカデミー賞授賞式の中継を観ていて、この後受賞作を見に行こうと思って時間を調べたら、1時間後に「アノーラ」、2時間後に「名もなき者」がスタートだった。結局、5部門受賞の「アノーラ」を観た。しかし、今回本作鑑賞後、ショーン・ベイカーには申し訳無いが「アノーラ」が1冠(助演男優)、「名もなき者」4冠(作品、監督、主演男優、助演女優)でも良かったと思った。
ティモシー・シャラメは、ボブ・ディランだった
コロナ禍と俳優組合のストの影響で撮了まで約5年かかったらしいが、その間役者は楽器と歌唱の練習が出来たらしい。クレジットではシャラメのギターも、ピート・シーガーを演じたエドワード・ノートンのバンジョーも、ジョーン・バエズを演じたモニカ・バルバロの歌も本人の物だった。
多少の音ずれの修正はあったそうだが、最初にウディ・ガスリーと会ってディランが歌う姿は100%シャラメの演奏と歌で全く修正はないとの事。
ティモシー・シャラメのギターと歌は本当に見事だった。
歌う様だけで無く、しゃべり方、所作、一番似ていると思ったのは彼の眼差しである。
また、この作品は「まなざし」の映画だと思った。
ウディ・ガスリーを見るディランのまなざし。
ディランを見るピート・シーガーのまなざし。(映画の最初と最後では意味合いが違う)
ディランを見るジョーン・バエズのまなざし。(初めてディランの歌を聴いた時、彼の書いた詩を読んだ時、ステージで並んで歌う時、ステージ横から彼の歌う姿を見つめる時)
ディランにアコギを突き出すジョニー・キャッシュのまなざし。
ディランを見るシルヴィのまなざし。(隣に座った彼を見る時、バエズとのステージを見る時、船着き場で別れる時)
そして、ディランを見るウディ・ガスリーのまなざし。
マンゴールド監督は脚本執筆段階でディラン本人と直接話す機会を得た。擦り合わせが上手く出来ていたのか、完成した脚本を読んだディランの要求はただ一つ、実在したスージー・ロトロの名前を変える事だったという。(映画ではシルヴィア)
実際スージー・ロトロはディランの恋人で、セカンドアルバム「フリーホイーリン」のジャケットに一緒に映っている女性である。映画の中でも自宅等で一緒に写真撮影をするシーンがある。(ロトロは2011年に亡くなったとの事。亡くなっていても名前を変える事を要求したディランの胸中は如何に)
1965年7月25日 エレキギターで武装したボブ・ディランは、ニューポート・フォーク・フェスティバルのステージという戦場で「ライク・ア・ローリング・ストーン」をぶっ放し、自分の作られたイメージを破壊したのである。
なんで、アカデミー賞何にも取れなかったかなぁ。残念。
Mr.C.B.2さん
コメントへの返信を頂き有難うございます。
私も作品を通して伝えたかった事を自分なりに再考したいので、Wikiなどを読むなどしているのですが、気付きませんでした 😑
ボブ・ディランにとって、とても大切なひとだった、という事が伝わるエピソードですよね。
ボブ・ディランは、どんな想いで本作をご覧になられたのでしょうね。
Mr.C.B.2さん
右手小指、痛そうですね。もう治りましたか。
恋人の名前がスージー・ロトロではなくシルヴィ … ボブ・ディランからの要望だったのですね。スージー・ロトロとの美しい思い出を大切に思っているからこそ、なのでしょうね。
そうか・・・、まなざし。確かにシャラメ=ディランのまなざし、ピート=ノートンの、バエズの、シルヴィのまなざしがとても強く優しく若く沢山語っていました。大袈裟に言葉で叫ばないまなざし。私はバエズに惹かれました。本物見たこともないのに。
共感ありがとうございます。
S&Gの公演、いいなあ。私はアルバム「明日に架ける橋」を持っています。
アカデミーはあまりチェックしないんですが、専攻基準がよくわからず。取れずに残念です。
ティモシーがアカデミー賞を逃したのは本当に残念でした。いまでも悔しい気持ちでいっぱいです。ふつうの人シルヴィを演じたエル・ファニングも光っていたと思います。
共感ありがとうございます。
フォークの裏切り者と言われる迄のお話でしたが、ディランはS&Gやビリージョエル、はたまたスプリングスティーンへ影響を与えたんだからやっぱり凄かったと思いますね。
なにかの本には一種のミュージカルと書いてありましたがその通りだと思います。娯楽作として正統派の造りだったんですがね。