「音楽というツール」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
音楽というツール
洋楽は聞かない。だからボブ・ディランの事もよく知らない。でも「like a rollimg stone」のフレーズだけは耳にこびりついている。
どの年齢だったかの僕の胸に刺さったんだと思う。そこからずっと刺さってる。そういう事が出来てしまう部類の歌手なんだと思う。
カントリーとフォークの違いも勿論分からない。両者ともおとなしい音楽ってイメージだ。でも、ボブのフォークはなんか違う。メロディラインは踏襲していても歌詞が鮮烈だ。歌詞だけ読んでるとロックにも思えてくる。なのだが、その痛烈な歌詞が紡がれていくと、深いテーマに辿り着く。
不思議な感覚だった。
1本の映画を観てるってな語弊はあるんだけれど、それくらい起伏に富んでた歌のように思う。
シャラメ演じる作中のボブは、なんだかずっと"漂ってる人"みたいで…こんな人だと形容し難い。形がないと言うか、型にはまらないというか、彼自身を転がる石と例えていいくらい頓着がない。
あの気だるい声のせいかとも思うのだけど、サングラスから時折覗く目からも覇気はほとんど感じない。それはステージにあがってもそうで…自然体といえばそうなのだろうし、無頓着と言えばそうなのだろう。
作中の曲にLOVEにまつわる曲がなかったのも、そう思えた一因だった。
いっぱい歌ってんのかもしんないんだけどさ。
なんか軋轢とか反抗とか打破とか、なんとなくだけど下から上を睨みつけてるような歌詞が多かったように思う。日本のフォークソングだと「神田川」くらいしか出てこない程、音楽には疎くて、俺の知るフォークソングとはかけ離れてる。あ、でも、中島みゆきさんの「時代」とかもその部類なのかな?
型を押し付けられのは嫌いみたいで…でも自由でいたいのともまた違うくて、自分の個性を侵犯されるのが嫌みたいな人だった。
そんなBDはミュージシャンで唯一、ノーベル文学賞をとった人なのだとか。55枚ものアルバムを出す程、吐き出したい想いやぶつけたい想いがあったのだろうなぁと思う。授賞式にはやっぱり出席しなかったみたいだけれど。
シャラメの歩いてる姿勢がめちゃくちゃ綺麗で…高潔さを感じてしまう。実際のBDもそうだったとするならば、外面と内面はかけ離れてる人なんだろうなぁとも思う。
一つ気にかかるのは、BDがミュージシャンを志した動機みたいなのが語られなかった事だ。ミュージシャンになりたかったのだろうか?
ひよっとして「好きなミュージシャンを自作の歌で励ましたかっただけの人」とかの方が、色々辻褄が合うような気がする。
売れる歌とか共感とかじゃなくて、音楽ってツールを使って、自分の想いをただただ吐き出し続けたってのが動機なような気もしなくはない。
世界一我儘な音楽家だったのかもね。