劇場公開日 2025年2月28日

「音楽への逃避行」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5音楽への逃避行

2025年3月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

華も名もあるボブ・ディラン(ティモシー・シャラメ)の半生記でした。当たり前の話ですが、ほぼ全編に渡って音楽で埋め尽くされていて、そこを聞くだけで非常に素晴らしい作品でした。ただ、劇中の観客がボブ・ディランに唄って欲しいと思う曲は、映画を観ている観客も聞きたいと思う曲と重なっている感じがして、にも関わらず客に迎合したくない彼はそうではない曲を唄うという流れになっていたため、劇中の観客も映画を観ている観客(少なくとも私)とも、カタルシスを得られないお話でもありました。そのため、ややストレスを感じなくもない結果になったというのが正直なところでした。まあボブ・ディランの心持ちは充分に理解できるのですが。

また、人間関係においても、恋人のシルヴィ(エル・ファニング)や、ミュージシャンとしてのライバルにして同士でもあるジョーン・バエズ(モニカ・バルバロ)の気持ちを一切無視して、自分の感情の赴くままに行動する姿には、ちょっと痛々しさすら感じました。ただ音楽に接している時だけは生き生きとした表情で、まるで音楽に逃避行しているようで、いわゆる”孤高の芸術家”というタイプとも違う描き方をされていると感じたところでした。

いずれにしても、「マッドマックス」に出て来る車の先頭に乗って”行進曲”を演奏するバンドの存在を見るまでもなく、音楽というのは人を”前進”させる力があるようですが、本作においては”逃避行”とセットになっていることから、音楽の素晴らしさに反比例して感情が高ぶらないお話ではありました。
ただ第97回米国アカデミー賞で、主演男優賞にノミネートされ、また作品賞などにノミネートされた「デューン 砂の惑星 PART2」でも主演したティモシー・シャラメの熱演と熱唱は感動もので、お話の内容は個人的に好みではなかったものの、間違いなく一見の価値はありました。

そんな訳で、本作の評価は★4.4とします。

鶏