「私も自分に正直に」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
私も自分に正直に
続くレジェンド・ミュージシャンの伝記映画。
今後もマイケル・ジャクソンやビートルズ(メンバー一人一人を一本ずつ計4本同時製作するという…!)が“公演”を待機する中、本作で半生と歌声を披露したのは、ボブ・ディラン。
…と言っても、名前は勿論聞いた事はあるし、映画繋がりで『ワンダー・ボーイズ』でアカデミー主題歌賞を受賞した事、ミュージシャンとして初めてノーベル文学賞を受賞した事も知っているが…、それくらい。
音楽史に名を刻むシンガーソングライター。あのジョン・レノンも心酔…と言うか、同世代なのに驚き。
半世紀以上も第一線で活躍。数々の名曲を世に出したが、代表曲やどんなミュージシャンだったかも知らないレベル。毎度毎度の事ながら、私ゃ音楽には疎く…。
そんな音楽に疎い者でも見れるのか?…と、鑑賞前一抹の不安。
鑑賞の理由は言うまでもない。
昨年末アメリカで公開されるや、スマッシュヒット。元々注目作だったが、一気に支持を上げ、アカデミー賞で大健闘の8部門ノミネート。
目下、主演男優賞が有力。ボブ・ディランを演じるのは、今旬のティモシー・シャラメ。
彼の成りきりパフォーマンスが前々から話題を呼んでいたが、評判違わずの大絶賛。人気も実力もキャリアも超絶好調のティモシーに、新たな代表作とオスカーが…? 間もなく発表!
つまりはボブ・ディラン云々より、オスカーノミネート作(地元の映画館で上映される本年度のオスカーノミネート作は本作と『ウィキッド』だけ)やティモシーの名演を見ておこうと。
鑑賞の動機は『ボヘミアン・ラプソディ』や『エルヴィス』と対して変わりない。
主演俳優の音楽パフォーマンス。
ラミ・マレックやオースティン・バトラーの憑依レベルの熱演やパフォーマンスも見事だったが、ティモシーはちょっと違う。
彼の持ち味である繊細な表現や内面演技で体現。
歌もギターも吹き替えナシ。劇中40曲も披露…!
憑依というより一体化した名演は、陶酔させられるほど。
いつも新たな魅力を見せてくれるティモシー・シャラメに感嘆の声しかない。
若きボブ・ディランに影響を与えるシンガーに扮したエドワード・ノートン、エル・ファニング、モニカ・バルバロらも極上アンサンブルと見事なパフォーマンス。
幅広いジャンルを手掛ける現ハリウッドきっての職人監督、ジェームズ・マンゴールド。思えば新鋭だった彼が一躍飛躍したのもミュージシャン伝記映画『ウォーク・ザ・ライン』だった。
ボブ・ディランの長い音楽人生を振り返るのではなく、まだ無名だった若き頃にフォーカス。1960年代、ほとんど裸一貫でNYにやって来て、憧れのミュージシャンたちや様々な音楽との出会い、荒波のような時代と向き合い、気鋭のミュージシャンとして成功していく傍ら、自身のスタイルに葛藤…。ボブ・ディランにとっても最も重要シーンと言われる若き日の5年間。
音楽映画というより地に足付いた人間ドラマ。
ならば音楽に疎くともボブ・ディランをよく知らなくとも、無名の若者のサクセス・ストーリーとして見れると思ったら…。
臨場感あるライヴシーンは多々織り込まれているが、話自体は淡々と進む。
監督やティモシーやボブ・ディランそのもののスタイルには合っているのだろうが…、『ボヘミアン・ラプソディ』や『エルヴィス』と比べると長く、少々退屈に感じてしまった。
結局の所、何を見せたかったのかも今一つ分からなかった。
フォークシンガーとして人気になるが、決め付けられたスタイルに悩む。当時、不良の音楽と言われていたロック。触発され、1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルで、フォークを望む観客を裏切り、ロックを披露…というファンの間では伝説級のエピソード。
これがクライマックスでもあるが、カタルシスにも欠けた。
後にノーベル賞を受賞するからもっと崇高な人物かと思いきや、二股したり、反逆児だったり。
リアルな面に迫ったのは悪くないんだけど…。
アカデミー賞ノミネート、ティモシー人気、見た人からもすこぶる高評価。
が、正直、私には合わなかったかな…。絶賛レビューの中で言いづらいが…。
映画としても『ボヘミアン・ラプソディ』や『エルヴィス』の方が好みで、ミュージシャンとしてもクィーンやエルヴィス・プレスリーの方が聞き惹かれるものがあり、そもそもただ私がボブ・ディランの事をほとんど知らず、ピンと来なかっただけかもしれない。
ファンの方々には大変申し訳ないが。これが私の正直な感想です。
詩的な歌詞でノーベル文学賞まで受賞するんだから、歌詞に込めた思いとか期待しちゃいますよね。ティモシー、エドワード、モニカ達は素晴らしかったですが、脚本が惜しかったです。