「マイクは誰なの?」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN アガサさんの映画レビュー(感想・評価)
マイクは誰なの?
ロック好きとしては必見の映画だと思います。
ディランは聞いてたけど、あらためてこんなにたくさん名曲を書いていたのだなと感心しました。
ストーリーについては、ボヘミアンラプソディ同様脚色演出はあるのでしょうけれど、非凡なフォーク歌手からロックンローラーとして殻を破っていく様が描かれています。
ストーリーはそれが全てです。
ボヘミアンの時みたいに史実と違うとかの野暮な批判はやめましょう。映画なんですから、観て面白いようにしないとね。
ディランがジョンレノンやジミヘンドリクスなど多くのミュージシャンに神格化された理由は、例えばピーターポールアンドマリーや、それこそピートシーガーのような健全、真っ白な音楽性でなく、ロバートジョンソンにも負けないブルースの様なスタンダード性を持つ楽曲の数々と、その歌詞とロックな佇まいだったと思います。
ソニーテリーとブラウニーマギーとの共演シーンや、「ブラインドウィリーマクテル」の名前や、ブッカホワイトのfixing to dieが初レコーディングシーンに採用されていたり(そもそもそのデビュー作はブルースだらけなのです)、ブルース歌手との演奏シーンがあるように、ディランの本質はウディガスリーを基礎としていますが、レッドベリーや黒人のブルース、そしてリトルリチャードやチャックベリーのロックンロールがあることに気づかせてくれます。
フォークという枠にとどまれなかった姿を見事に描いています。原作のタイトルが「ディラン、エレキに行く!」ですからね。
反社会、不良なディランは当時の若者にはエルビス並みの人気を獲得して当然です。そう言えば、エルビスの映画も黒人音楽が多く取り上げられてました。
そして、ギター一本で自分の気持ちを歌って音楽になるのだというスタイル、特に「フリーホイーリング」は、音楽をさして知らない勘違いした日本の若者達に影響を与え、日本にもフォークブームを引き起こします。まあ、そのほとんどは私は嫌いなのですけども。音楽的な深みが全く無いのが日本のフォークなので。
だって、ご覧のように、ディランはブルースやジャズや、ロックンロールやカントリーを良く知ってます。
さて、私はポールバターフィールドブルースバンドのマイクブルームフィールドのギタープレイ目当てで「追憶のハイウェイ61」でディランを聴いた人間なのですが、
「マイクを呼べ」とか、「マイクのギターは最高だ」と言うセリフが聞けるのに、マイクブルームフィールド役の俳優さんはセリフすらなく、全く注目されません。(笑)
誰なの?
「ボブにギターを教えてやろうと思った」とマイクはインタビューで言ってたぐらいなのに…
アルクーパーでも、弾いたことのないオルガンの前に座って見事な演奏をしたエピソードは描かれているのだから、ディランが共演を望んだマイクもあともう少し存在感出してくれても良かったのになー。
フォークにとどまった人たちは、今は過去の思い出になりましたが、ディランは今なお現役です。
あと、ギターの音の取り方が上手い!アコースティックギター全編いい音で鳴ってます。
映画としての出来はいいので、そんなマイクへの個人的な趣味のため、星半分減とさせていただきます。