「The Real Falk Blues」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN マスゾーさんの映画レビュー(感想・評価)
The Real Falk Blues
フォークソング
もともとは
その国の民謡や民族音楽を
さすものだったが世間的には
電気楽器を使わずバンジョーや
アコースティックギターなどで
反戦思想や労働歌を歌い上げる
ポピュラー音楽として広まった
第二次大戦後にはレッド・パージ
の一環として反戦的な内容が
共産主義に傾倒していると弾圧を受け
「カントリー」と名を変えたりした
その後1960年代になってフォークソングの
良さを取り戻すべく活動していた
ウディ・ガスリーやピート・シーガー
らがフォークを復権させベトナム戦争
などを背景に再び隆盛を築いた
そんな1960年代に
流星の如く現れたフォークシンガー
ボブ・ディランがニューヨークにふと
訪れてから音楽界を塗り替える
ビッグシンガーになるまでを
描いた今作
どうだったか
「フォードvsフェラーリ」でも
題材の人物を多少の脚色込みでも
ヒロイックに仕上げていた
ジェームズ・マンゴールド監督の
手法はそのまま1960年代のNYの
陰鬱さと混乱さをを鮮やかに再現し
そこにたたずむティモシー・シャラメは
まさしくBDで圧巻でした
あの独特の座った目とモジャ頭
あたかも憑依したかのような姿で
歌い上げる「風に吹かれて」ら
名曲達には終始圧巻でした
映画は1960年代初頭
近代フォークの祖
ピート・シーガーが盟友の
ウディ・ガスリーの病床
(ハンチントン病という難病に
侵されていたようですね)
をニューオリンズから
なけなしの10ドル片手に訪ねた
ボブが「衝撃を受けた」ガスリーの
為に作った曲を弾くところから
運命が変わり
伝説の逸話となった1965年の
ポートランド・フォークフェスの
大混乱までのボブの隆盛と苦悩を
曲に乗せて綴っていきます
ボブ自身の楽曲にのみならず
その過程で出会ったジョーン・バエズ
ジョニー・キャッシュらの歌唱も
ホント素晴らしく外観も本人の
姿と見比べると再現度ヤバいです
映画としてのテーマは
フォークの新星として扱われつつ
コロンビアが要求するレコードは
カバーばかりという状況に
恋人シルヴィに焚きつけられて
作っていた自分の曲をどんどん
披露し大成功を収め
今では当たり前の
作った曲を自分で歌う
「シンガー・ソングライター」
を一般化させたBDがやがてぶつかる
「いい音楽にジャンル分けは必要か?」
「他人にやれと言われてやるのか?」
という葛藤に苦しんでいきます
BDの書く詞には反戦や平和にまつわる
ものが多くベトナム戦争当時
起こっていた公民権運動や
反戦運動を行う人々の象徴的な
存在になりましたが当の本人は
そうした政治活動には全く興味が
なかったのです
ジミ・ヘンドリックスや
ジョン・レノンもそうした
側面から時代の寵児だと
BDを信望していましたが
会ってみると拍子抜けしたそうです
芸術家シルヴィは活動家気風があり
BDに惹かれて恋人になりましたが
なんだかんだ彼の事は何も知らない
知ろうとしても語らない
でもそんな彼女がBDを世に出す
きっかけをくれた
それにはBDは感謝して
別れた後も近からず遠からず
関係していたようですがやはり
最後まで相いれなかった
「私は皿回しの皿ではない」
という惜別の言葉に対し
「あの芸好きだよ」
という無神経なBD
でもそんな性格だからこそ
こだわりなく様々なジャンルに
飛び込んで行けたのでは
ないでしょうか
そして映画終盤のその1965年の
ポートランドのフェスのシーン
バックバンドを携えエレキを持ち込み
全く違う音楽をやろうとするBDに
主催者は絶対やめろと激怒するし
恩人のピートでさえもこれは
我々が育ててきたフォークのイベント
なんだと説得しに来ます
それでもBDは好きなように演奏し
観衆はフォークをやれ!裏切者!
と大混乱に陥り
結局おさめるためにアコギで
1曲やって現場を去ります
その歌う前
「I don't believe you!You're a liar!」
(お前らなんか信じない!嘘つきめ!)
と悲痛に叫ぶBDの姿は刺さります
ちなみにこのフェスの逸話は諸説
あるそうで演奏内容への不満でなく
会場の音響がずっと悪いのに
トリでついに観衆がキレたけで
演奏には歓声もちゃんと
あがっていたという話もあるそうです
このへんの混乱さも映画では
ちゃんと再現されていました
確かに商業音楽の世界
人気ミュージシャンが次のアルバムで
路線変更を行うと大抵それまでの
ファンは反発しました
あんたはそんなジャンルやる人じゃない
とか俺が聞きたい曲じゃないとか
ファンは好き放題言います
でもミュージシャンはそれが
やりたいからやってるのであって
そうしたファンの声は辛いのだろうな
と思うところがあります
これもいいじゃんと喜んでほしい
合わなければスッと離れればいい
そんな感じだと思います
(まぁBDの曲が変化していくのは
"おくすり"の影響も大きかったと
思いますが映画ではそこは触れてません)
そういう意味ではBDはジャンルを跨いで
様々な楽曲に挑戦しアルバムを売りまくった
これによって見いだされた様々なジャンルの
ミュージシャンがいた
それがBDの偉大さなんでしょうね
日本だと吉田拓郎がまさにそうでしょう
これはアニメの関係者の方に聞いたのですが
「君の名は。」でも「鬼滅の刃」でも
アニメの大ヒット作品が出ると
別に他社のヒットでも関係なく企画が
どんどん通るようになるそうです
だから業界全体にとって良い事だから
悔しいとかとういうのはなく
現場は皆で喜ぶのだそうです
それと同じなんだなと思いました
客席は年配の方も多く
BDの幅広い活躍がそこからも伺えました
スクリーンの音響で「聴く」価値アリです