「何者にもなれていないのに、全能だと思えた人々に贈る鎮魂歌」今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
何者にもなれていないのに、全能だと思えた人々に贈る鎮魂歌
2025.5.8 MOVIX京都
2025年の日本映画(127分、G)
原作は福徳秀介の同名小説
大学生の残酷な恋愛事情を描いた青春映画
監督&脚本は大九明子
物語の舞台は、大阪・吹田にある関西大学千里山キャンパスと京都・今出川にある同志社大学
関西大学の2回生の小西徹(萩原利久)は、人付き合いが苦手で、いつも学内で日傘を差していた
唯一それが必要ないのが大分出身の友人・山根(黒崎煌代)で、彼は大分弁で奇抜なファッションを好んでいた
徹は、家の近くにある七福温泉という銭湯でアルバイトをしていて、とある事情で少しの間休んでいた
店長の佐々木(古田新太)とその娘・夏歩(松本穂香)は笑顔で歓迎し、バイト仲間の同志社大学の学生・さっちゃん(伊東蒼)もテンションを爆上げしていた
ある日のこと、学内でお団子ヘアの学生・桜田花(河合優実)を見かけた徹は、彼女に心を奪われ、その存在をずっと気にかけるようになっていた
山根は恋をしていると感じていたが、特に野暮なことは言わずに見守っていた
物語は、ある大雨の日にヘッドホンをしている花と、日傘を差している徹がすれ違うショットから始まり、その後、徹の日常が描かれていく
そして、また別の雨の日の裏道で偶然出会った二人が、その縁を引っ張った徹によって引き寄せられていく様子が描かれていく
だが、徹のことが好きなさっちゃんは「徹の影に女性の姿」を感じて勢いに任せて告白をしてしまう
この約10分ほど一方的に気持ちを語るクライマックスのようなシーンが、実は映画の中間地点となっていた
映画は、「花曇(FULL OF SPRING CLOUDS)」「緑雨(EARLY SUMMER RAIN)」「虹橋(A RAINBOW)」「雷鳴(RUMBLING THOUNDER)」と続き、この後にさっちゃんの告白が登場する
翌日には、徹と花は昼食を済まし、喫茶店で謎のオムライスを食べるために約束を交わしていた
約束の時間になっても花は訪れず、さらにさっちゃんもバイトに来なくなってしまう
徹は花に強烈な嫌悪感を抱き、さっちゃんが来ないことを自分の責任だと思うようになる
そして、衝撃の事実が突きつけられる、という流れになっていた
映画のタイトルは、その日に起きた出来事が示されたのちに登場し、「SHE TAUGHT ME SERENDIPITY(彼女は僕にセレンディピティを教えてくれた)」という言葉で補足されていた
ここから先のストーリーは完全ネタバレでも躊躇する内容で、彼らを取り巻く人間関係の相関図というものがガラリと変わる展開を迎える
そして、それに気づかなかった理由というものが明確に語られ、恋の盲目の裏側にある残酷さというものを描いていく
冒頭のシーンは、花が白いヘッドホンをして爆音で雨音を聴いているシーンで、同時に徹は日傘を差して視界を塞いでいる
この時に大学に来た花に徹は気づくことができなかったのだが、これも盲目さが起こす恋愛の残酷さに繋がっていると言えるのだろう
後半はセレンディピティ(思いがけない幸運)の果てにあったラブストーリーになっていて、このまま2度と会わなかったかもしれない二人を引き合わせることとなった
花と再会した徹は「今じゃない」と言うのだが、このタイミングを「思いがけない幸運」とは思いたくもないのだろう
だが、人間関係というのも不思議な道程を経て、たどり着くべきところにたどり着くものであり、それを観念的な言い方に変えれば「さっちゃんが花と徹を引き合わせた」ということになる
恋愛感情とその場を支配している感情が混同する再会になっていて、それぞれが別離から歩んできた道であるとか、抱えてきた思いというものを暴露していく
そして、「人を傷つけた人間として生きていくこと」を徹は決意することになるのである
大学時代の何者でもないのに根拠のない自信を抱えてきた人ならばわかる作品で、今思えばどうしてそんなに自信があったんだろうと思えるようなことがたくさんあった
彼氏がいる人を好きになって玉砕するとかは、高校時代に踏み込めなかった後悔がさせている部分があり、その向こう見ずな部分は色んな人を傷つけていたように思う
でも、自分が一番傷ついたと勘違いしてしまうのもデフォな感情であり、そうして過ごす4年間というのは、人生の中で一番宙に浮いていた時間のように思える
そう言った中で、人生の岐路となる人間関係は構築され、そこで自身の属性というものが色濃く反映され、進路というものに続いていくのではないだろうか
いずれにせよ、半分以上は体験談なんだろうなあと思って観ていて、空白が生まれたのは時代性(おそらくスマホがなかった頃の話)ゆえの悪戯のように思える
映画では、あえてどの時代かを明確にはしていない部分があるが、SNSで簡単に繋がっている今とは違う空気感の残っていた時代を再現しているように思えた
原作小説があるのでネタバレ云々は色々とあると思うが、可能なら頭をまっさらにして観た方が良い
そして、呪いのような長い告白に晒される彼らを見て、自分の中にある何かが疼くのを堪能することで、当時の立ち位置と現在地を確認することができるのかな、と感じた
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