「この映画が一番好き、とまだ言えない僕は」今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は レントさんの映画レビュー(感想・評価)
この映画が一番好き、とまだ言えない僕は
ジャルジャルの福徳君の原作小説の映画化だそうだ。ジャルジャルのコントは一つしか見てないが面白かったのは憶えている。でもこの映画は見る人によって評価分かれそう。
若いころはみんな自意識過剰で人からの自分の評価が気になって仕方ない。大学デビューに失敗した徹は周りに溶け込むこともできず、くすぶったキャンパスライフを送っていて友達と呼べる人間は変わり者の山根のみ。
キャンパス内で居場所のない徹は山根を誘い誰も来ない屋上庭園で昼飯をぱくつく。友達のいない高校生が教室じゃなくてひとり屋上で昼飯食べるように。
自意識過剰な徹は紫外線ではなく人からの視線を避けるかのようにキャンパス内では常に日傘をさし続けた。しかしそれは逆に目立つ行為でもある。むしろ視線を避けてるというよりかは自分のことを注目してほしかったのかも。
誰からも関心を持たれないから誰か僕のこと見てよ、みたいな感じで。それは山根のド派手なファッションやきつい方言同様、徹の必死の自己アピールだったのかもね。花と出会って注目される必要なくなってからは日傘ささなくなったし。
若いころはとにかく人からどう見られてるかが気になってしょうがない。でも実際は誰も自分のことなんか見てないんだよね。みんな徹と同じく自分のことで頭が一杯、他人のことなんか気にも留めない。
ラジオから流れる中東情勢や、構内の反戦デモなんかもみんなさほど関心がない。
徹も自分のことばかりで余裕がないからバイト仲間の咲の自分への好意にも気づけない。特に花との出会いで有頂天な時だから尚更だ。
自分が繊細な人間だなんていいながら咲の気持ちには全然気づけない。所詮は徹も自分を代返に使う同級生たちと変わらない。咲を都合のいいバイト仲間としか思ってないんだよね。
咲の告白を聞かされてもただただ困惑するしかなくて彼女を思いやる言葉の一つもかけられない。
徹から何の言葉もかけてもらえないからか、咲の独白は間をもたせようとやたらと長々続いて聞いててちょっと引いてしまうくらい。ここはあえて監督はこのように演出したんだろうか。
勝手に片思いして勝手に失恋して、そんな心の内を恋愛対象でもない子から長々と聞かされても、みたいな迷惑そうに感じてるそんな徹の残酷な心理を表現するためにあえてそうしたのかも。
このシーンの伊東さんの演技がいいという人多いけど、見ていて私も引いてしまったから監督はあえてウザく演技させたのかと。
思えば寒い演出が目立つ作品ではある。やたらと変なタイミングでスローモーション入れたり、なんでこのタイミングでと首をかしげるシーンが目立つ。
前半の徹の言動に寒いのが多いのは有頂天になっている徹の若さを表現してるのでまだ許せる。花と仲良くなれて突然叫び声をあげるとことかはやはり寒いけどね。終盤の犬の真似はドン引きしたな。
監督の作品は「私をくいとめて」しか見ていないがあれは普通に面白かったんだけど、本作はやたらと奇をてらいすぎじゃないかな。すべて空回りしてるような気がする。
ドアを引くではなく押すとか、もぐもぐ咀嚼音などを台詞で言わせたりとか、なんか奇抜なことしたかったのかな。
ほんと見る人によって評価が分かれる作品だとは思う。私は個人的にイマイチだった。正直中盤までは駄作だと思って見てた。中盤以降の展開がなければほんと見てられないくらい。あれでなんとか持ち直してくれた。
よかったシーンは古田新太が咲の焼香に訪れた時に叫んだその声にかぶせるように花が「最悪!」と吐き捨てたシーン。あれは本作で白眉だったな。河合優美がやはり本作でもよかった。
自分のことしか考えられない自意識過剰な主人公が苦い経験をしてほんの少しだけ成長してあらためて恋愛に一歩踏み出していく。そんな普通の恋愛もの。
ちなみに伊東さんは古田新太と共演すると必ず交通事故で死ぬんだね。
さっちゃんの長台詞は、確かに主人公には響いてなかった。
ここは、最後に自分が告白する段になってやっと理解・共感するまでがセットなのかと思います。
聞く側の面倒くささも伝える側の痛切さも、どちらも表れていたかな、と。
1年以上通った大学でドアの押し引き間違えませんよね。
台詞回しも演出も、なんだか狙いすぎの部分が目立っていた印象です。