「リア充ですが何か?」今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
リア充ですが何か?
『大九明子』の手腕は、
コミュニケーション不全の人間を主人公にした時に、
抜群の冴えを発揮する。
〔勝手にふるえてろ(2017年)〕の『松岡茉優』しかり、
〔私をくいとめて(2020年)〕の『のん』しかり。
それを本作では男子大学生に置き換え、
新たな傑作を生みだした。
故郷の横浜を離れ「関西大学」に通う『小西(萩原利久)』は、
家庭の事情もあり大学を長期間休んでいた。
大学の敷地内では日傘をさすとの奇矯な行動に象徴されるように、
他の学生との間に自分から垣根を作っており、
学内に友人は『山根』しかいない。
そんな彼が、
独りで蕎麦を啜るシニヨンの女子学生『桜田花(河合優実)』に目を留め、
思い切って声を掛けると、
これがどうにもウマが合う。
細かい感性がぴたりと嵌り、
会話はとことん盛り上がる。
が、何日かを楽しく過ごしたのち、
彼女はふっつりと姿を消す。
ここから「消えた女と探す男」にストーリーは移って行くのかと思えば、
そうはならない。
『小西』は自身の妄想に閉じ籠り、
気遣う『山根』にさえ邪険な態度をとる。
共感できぬ人物の典型例。
観客はこの後の成り行きを
顔を顰め冷たく見つめる。
そもそも彼は孤独な存在ではない。
『山根』のような友人も居るし、
バイト先の銭湯では店主やその娘に頼りにされている。
なによりもバイト仲間で同じ大学に通う『さっちゃん(伊東蒼)』は、
彼に好意を抱いているように見える。
その『さっちゃん』が、夜道で独白にも似た長台詞を吐くシーンは見せ場。
彼女の全身をフレームに収めた長回しと
時として『小西』の顔のアップを挟み乍ら
台詞は途切れず延々と続く。
聞いていて胸がかきむしられる
心に突き刺さる切な過ぎる内容も、
実はこの場面がキーポイント。
物語りの転換点且つ、最後のシーンと鮮やかに対比させ繋がる、
出色の構成なのだ。
それにしても、役をこなした『伊東蒼』は素晴らしい。
この場面だけで、更に一皮剥けたような成長を感じさせる。
そののちに、思いもかけぬ展開が待ち受ける。
が、それは先に『さっちゃん』が語った言葉をよくよく吟味すれば、
ある程度は予見できたもの。
そしてまた彼女の感性も、実は『小西』と似ていたことの背景でもある。
その場面と
次に挙げるシークエンスだけで
本作を観る価値は十分にある。
顔のアップが多用される
『花』と『小西』の長い会話は、
やはり印象的。
深い悲しみから立ち上がり、
新たな希望を掴もうとする二人を再生へと導く。
そもそもの出会いが
劇中何度も繰り返される「セレンディピティ」だったことも、
改めて指し示す。
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