Brotherブラザー 富都(プドゥ)のふたりのレビュー・感想・評価
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「満ち足りた家族」と好対照な、貧しい兄弟の絆と運命
韓国発「満ち足りた家族」、香港発「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件」そしてマレーシア・台湾合作の本作と、アジア映画の力作、良作の日本公開が続く。兄と弟の関係性が物語の鍵になっている点で「満ち足りた家族」と共通する。ただし、あちらが弁護士兄と医師弟という上流の兄弟の確執が優勢だったのと対照的に、この「Brotherブラザー 富都(プドゥ)のふたり」では、身分証を持たずスラム街で暮らす貧しい兄弟の絆が哀しくも美しい。
台湾の俳優ウー・カンレンが演じたろう者の兄アバンのキャラクターがしみじみと素晴らしい。不良の弟を常に気にかけ、トラブルに巻き込まれても決して見放さない。ゆで卵を互いの頭にぶつけて殻を割るシーンが微笑ましくて、ちょっと哀しい。それから、2人が乗った長距離バスが休憩所に停まったときの出来事が印象的で、長編初監督・脚本のジン・オングによるストーリーテリングのうまさに感心。
観光で訪れただけではまず知り得ないマレーシアの最下層という暗部を題材にした映画で、画面もかなり暗めだが、国境を越えて琴線に触れる普遍性が確かにある。邦画では藤元明緒監督作「海辺の彼女たち」と近いものを感じた。
飲み込めなかった
弟よ、それでいいのか?
貧富の差
多様な家族の愛のカタチ
前半はクアラルンプールの街並みや市場、生き物たちの色彩の鮮やかな映像を背景にして、
兄弟と周囲の人々の貧しいながらも逞しく生きる暮らしぶりが描かれる。
とくにアバン、アディの兄弟と親代わりのマニーさん3人の団らんの食事、
兄弟ふたりのダンスは、
国籍などの出自、性別を超えた多様な家族の愛の姿を描いた
ほんとうに美しい白眉たる素晴らしいシーン。
後半は偶発的な事件をきっかけにして、
兄弟は苦しみ、追いつめられていく。
クライマックスの兄アバンの自らの想いを訴えるシーンは、
不条理な社会を超えて、神の沈黙に対する怒りを表出しているようで
強い表情も相まって観る側の心に深く突き刺さってくる。
ラストは静かに運命を受け入れていく兄弟とマニーさんの心象風景が印象的。
音楽もメロディーではなく重厚なサウンドで聴かせる感じが
ストーリーにマッチしていたと思います。
過酷な運命に導かれた者たち
善良な人間を身分証無いだけでまともな暮らしさせないって社会の損失
両サイド、どちらにも中年男性が座っている状況で鑑賞。
映画終盤、両サイドから中年男性のすすり泣く声が聞こえてくるという特殊な状況に遭遇。
そんなわけで、本作は「泣ける映画」を求めている人に超おすすめ。
主人公はマレーシアの首都・クアラルンプールに住む兄弟。
兄のアバンはとても善良な人間なのに、父親が原因で身分証明書を持っていないため、まともな公共サービスを受けることができず、警察の検挙に怯えながら暮らす日々。
不法滞在者を拘束するため、警察がスラム街にあるアパートの住居を次々とこじ開けていく場面は、アメリカでトランプ再選後に行われている不法移民大量摘発を連想。
事態を改善したいNGOの職員が政治家に直接陳情してもまともに取り合わず。
役所に請求してもたらい回し。
政治が何の役にも立っていないことがわかる。
善良な人が報われない社会ってどうかと思う。
でも2022年公開の日本を舞台にした映画『マイスモールランド』も似たような話だったような…
弟のアディは兄と正反対の性格。
子供が教育を受けずにそのまま育った感じ。
身勝手で乱暴で楽して稼ぐことしか考えてない。
彼の振る舞いにうんざりさせられる場面ばかり。
でもこういう人間、世の中に多い気がする。
この映画を観れば、身勝手な振る舞えがどんだけ人に迷惑かかるか、客観的に認識する良いきっかけになると思う。
兄からすれば、弟が身勝手すぎるという不幸を背負っているわけだが、絶対に見捨てないのが凄い。
兄と弟が戯れ合うところでジーンとくる。
後半は『容疑者Xの献身』を思い出した。
兄のアバンは耳が聞こえないため手話を用いて生活しているが、映画後半での手話の使い方が素晴らしく、巨大な感動を生み出していると思った。
クライマックスで兄弟が対話する場面。
切実な思いをお互いがぶつけ合うシーンだが、手話でやり取りをするため、字幕に出てくるメッセージはとても熱いのに、劇場内は静音。
まるで魂で会話しているような感じがして、メッセージがより心に響いた。
両サイドの中年男性が泣くのも納得。
他の映画だと、クライマックスになると作り手が伝えたいメッセージを役者が号泣しながら長々と怒鳴り散らかしたりする場面がよく出てくる(特に日本映画)。
個人的にそういうのを見るとすぐ感情的になる幼稚な人に思えて萎えてしまうが、今回のクライマックスは凄いと思った。
「紙切れ1枚」の存在が天秤に掛けられる
揺れる地面の上で——無国籍者の生と絆
発展著しいマレーシア、クアラルンプールの貧困街に暮らす兄弟の物語。
彼らは 身分証明書を持たない無国籍者 だ。
無国籍であるとはどういうことなのか?
恥ずかしいことに、僕はこれまでそれを深く考えたことがなかった。
しかし、この映画は、無国籍者が直面する現実を丁寧に映し出し、それを考えさせてくれる映画だった。
彼らは、安定した職に就くことは困難で、現金日払いの仕事で食いつなぐ。
銀行口座を持てないから、稼いだお金は缶の中に貯めるしかない。
普通の家を借りることは困難で、無国籍者や違法入国者が集まるアパートに住み、時々ある強制捜査に怯えながら暮らす。
生活が極端に不便であるとか、貧困から抜け出せない、それは大変なことだ。
そして、映画が進むにつれ、それ以上の不安定さ—— 「自分の拠り所がない」ということの恐ろしさ が伝わってくる。
無国籍者の兄と弟は、お互いを唯一の支えとして、 ギリギリのバランスで立っている。グラグラと揺れる地面の上で、かろうじて踏ん張っているように。
僕は今年、定年を迎える。
雇用延長するか、それとも思い切って退職するか、今は迷いの日々だ。
早めに退職して、1人で細々とでも、趣味をやり、それが仕事になればいいなと考えている。これまで忙しくて十分にできなかった読書や勉強をして、考察を深めて、気づいたことをブログにまとめる。そんなことをすることで、 自己実現に近づけたらいいな、と思っていた。
マズローの5段階欲求説によれば、 下位の欲求が満たされていなければ、自己実現には到達が困難だという。
まあ対して誉められることも少なくなったが、それでも会社にいれば第4段階の承認欲求も満たされる瞬間というのはあるものだ。
それに、会社を辞めてしまったら、 さらに下位欲求である所属欲求を満たす場所を失うのではないか?
自己実現なんて夢のまた夢で、やっぱり会社に残ったほうがいいのでは?
そんな迷いを抱えていた。
でも、この映画を観て、「所属する」ということの本当の意味を考えさせられた。
所属先とは、会社や地域、家族といった小さな枠組みだけではない。もっと根本的な 「国家に認められていること」 が、人間にとってどれほど大きな所属基盤なのか、僕は気づいていなかったのかもしれない。
社会保障、健康保険、年金、警察や行政サービス——そうしたものに 、僕は当たり前のように守られている 。しかし、無国籍者はそれを 何一つ持っていない。
日本にも無国籍者は存在する。調べてみると、約1,000人 の無国籍者がいるという。実際は1万人を超えるのではという説もあるようだ。この映画の舞台、マレーシアには 推定約45万人 の無国籍者がいるとされている。何しろ国勢調査などでは対象外のはずだから、そもそも把握されていないのかもしれない。
彼らは国によって存在を認められず、そのほかの帰属集団を持つことも困難だ。互いに愛情があっても、結婚相手には選ばれない。国に帰属しないとはどういうことか、この映画はまざまざと見せつけてくれた。
そして無国籍であることは、人間の基盤でもある生存欲求や安全欲求すらまだ揺るがすことを教えてくれる。役名のつかない俳優たちが演じる無国籍者たちも真に迫って素晴らしく、いかに自分の悩みがのんきであったかを思い知らされた。
映画を観ていて少し違和感を覚えた。
弟アディは罪の意識が薄いのではないか?
しかし、それは 安定した社会の中で生きている僕の発想 だったのかもしれない。
そもそも、 道徳や倫理は「社会の中で生まれるもの」 だ。
社会に属していない人間にとって、それをどこで学び、どこで育てるのか?
生存基盤すら危うい状況で、社会のルールを守ることにどれほどの意味があるのか?
それでも、この映画の中で 兄アバンは善良であろうとする。
それがどれほど困難なことか。
彼自身も無国籍で、生きるのに必死なはずなのに、何度もアディに「善良であれ」と言い聞かせる。
彼の中にある「善良さ」は、一体どこから生まれたのか?
それを考えると、胸が詰まる。
タイトルは『Brother』=兄弟。
しかし、本作で描かれるのは、それ以上のものだ。
本作は同時に「無国籍者同士の絆」 を描いている。
たとえ、それが儚く消えるものであっても、たとえ、日雇い仕事の場で、 数回ランチを共にしただけの相手であっても、あるいはほんのひとときだけ恋心を共有して、別れた相手でも。
そうした不確かな関係性を「brother=仲間」と感じられる 感性 を持つこと。それが 自分自身を支え、そして相手もまた支えることにつながる。
会社から離れる不安を感じている今、この映画を観られて良かった。
ストーリーは心を揺さぶるもので、映像も美しい。
控えめな音楽が、観客に内省を促す。
マレーシアと台湾では 記録的大ヒットだそうだ。
日本では公開館数は少なめだが、映画館は満員だった。
エモーショナルであると同時に、多くの人に所属基盤の確かさに気づいていますか?と問いを投げかける映画 でもあった。
いい映画。
兄弟愛を描いた、切なくて泣ける作品
予告編を見ても響かなかったのと、ネトフリで観れるから観るリストに入っていなかったのですが、レビューが高いので観てきました。
マレーシアには4回位行っていますが、年々豊かになり、クアランプールにこんな生活をしている人達がいるとは驚きました。
観光では見えない世界です。
マレーシアを知っているので、作品がより楽しめました。
中国語、英語、マレー語が混ざっていたり、アザーンが響いていたり、移民の国籍が分かりやすい顔つきの俳優さんを使っていたり。
タナカを顔に塗っているのはミャンマー人。それ、プチデートに塗ってきちゃう⁉って所がカワイイ。
兄役のウー・カンレンはアジアのアカデミー賞をいくつか受賞していますが、世界でノミネートされて欲しい位、素晴しい演技でした。
ポスターを見ると、同性愛の映画だと思われてしまうのが勿体ない。
これは兄弟愛を描いた切ない作品。
上映館が少ないので、ネトフリで見る方も多いかと思いますが、何かしながら片手間でなく、腰を据えてティッシュを近くに置いて見て欲しい。
重く、辛く、切ない。
苦悩する姿が目に焼き付いてはなれない
アジアのにおいが鼻先をかすめる映像。
冒頭からすっかり映像の中に引き込まれました。
私の中には善と悪にカテゴリーする癖があることをまざまざと知った。
そして、報われることが当たり前と言うことはないと知っているのに、さも手の届くところにそのものがあるように思っていることも思い知った。
徳を積むとか、神・仏に祈るとか。
何の意味もなさないと目の当たりにする。
が、反面救われるのかもしれないという事も感じる。
いや、希望か切望か…。
政治の脆弱性が生む悲劇。
手話で伝えてくるどうしようもないほどの悲しみと怒りと諦め。
何故だ、なぜどうして…と涙が止まらなくなってしまった。
僧侶は手を握るほかない。
私もスクリーンのこちらで怒り、苦しみを爆発させても僧侶のように手を握ることすらできない。
この作品はフィクションかもしれないが、現実でもあろう?
と。
もう一つ。
愛のカタチ。
ただそこにあるものはカテゴライズできない、もしくはすべてのカテゴリーに属する愛だろう。
安っぽい展開になってしまったらシラケてしまうだろう流れでしたが、静かに真実がえがかれた場面は奇を衒うものでは無かったのがかえって愛を語るうえでカチリとはまったのではないだろうか。
ぽつんと立ちつくす兄の姿がもう全てを語っているようで涙そのもの。
兄の笑顔が愛そのものでした。
鑑賞後はなんとも言えない心持ちでしたが、良い作品だったと思います。
あるエッセンシャルワーカーのこと
私たちはどんな時代に生きているのだろう?
貧困にあえぐ兄弟(血のつながりはないが)のマレーシア発のドラマがここ迄心を打つのは、ひとえに人が人を想う人間の根源だからだろうか?
問題は二つある。
社会の分断を促進する移民排斥の非人間性 もろてを挙げて賛成というわけでもない私にもこの問題は国のアイデンティティに関わる問題であり、すぐれて国家政策が重要ということと思える
この映画では弟が移民ビジネスに手を染めている
二つ目はエッセンシャルワーカーの危険性について、人の心情面に関わる仕事(ボランティアであろうと同様)が、一人でクライエントに接するとかありえないが、それだけ人材は充足していない。しかしこの映画のような結末は、残念ながら可能性は否定出来ないこと
マレーシア代表としてアカデミー賞にも手を上げていたが、世界的にも目を背けられない問題だからだろう!
最後に愛の究極の形が、この兄弟にとってほぼ相手への無私の献身だと気づけば、私は本当の愛の究極をみるようなはれやかな涙にくれた
是非今年観るべき優秀な映画だと思う。
マレーシア語でアバンは兄、アディクは弟という固有名詞。映画の主題は世界共通言語
ウー・カンレン観たさに。私が見た中では、彼は静かな役が多いイメージだけど今回はろう者で声が聞けず。そのぶん内から湧き出るものがすごくて泣きました。初めて知ったジャック・タンにも大注目。養母のようなマニー役のタン・キムワンも好きになったよ。
映画.comは台湾のスーパースターであるウー・カンレンの写真を入れるべきですよ
不法移民は身分証明書がない。低賃金で日々を生きるしかない。日本にいると気にとめない当たり前の、自分はどこの誰かと言う証明がないので銀行口座も作れないし、免許も取れない。過酷な環境に生きる人々が世界にいる。ちょうどトランプ大統領が不法移民を逮捕しているというニュースもあり、普段考えてないことを考えさせられました
ただ、ちょっとツッコミどころが何箇所かあり。
最後に会いたい人は?というところで入ってきた後ろ姿の男性、背中がふっくらしてたので、NGOの女性のお兄さん?
最後にちゃんと謝りたかったんだなぁとばかり思いきや弟。
弟くん、えらくふっくらしすぎ。
このシーンだけ最後に後付けしたのかな?
主役の二人は魅力的
重く色々と考えさせる
選べない人生
クアラルンプールのプドゥ地区にあるスラム街で暮らす身分証明書を持たない兄弟の話。
市場でマジメに働くろう者の兄と、チンピラの手先みたいなことやヒモ活みたいなことをしている弟という設定だけど、血の繋がりはなく、兄は火事で両親を失い出生証明書を焼失したはホント?弟は不法移民の子で出生証明書は偽物ってことでOK?
それっぽいことは言っているけれど、社会福祉が違法だとか言われたり、弟は身分証を申請できないのに、親父の証言があればとか色々と聞こえてくるし、マレーシアの戸籍やその他制度がわからないからちょっと背景の把握が難しい。
苦しい立場にありながらも弟思いの堅実な兄と、甘ったれながらも兄貴やマニーさんには着いて行く弟の関係や日常をは、重く明るい未来がみえるものではないながらもなかなか楽しそうで良かったけれど…。
そしてヘビーな流れになって、かなりズシンと来ていたけれど、えっ!なにそれ!?な実は…があってなんだか拍子抜け。しかも弟もそれをわかっていふってことかな?
兄貴の叫びで盛り返したけれど、なんか途中のスカしとか、叫んだだけで満足しちゃった感じがちょっともったいなかった。
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