「この映画はずっとサンセットしててほしい」サンセット・サンライズ おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)
この映画はずっとサンセットしててほしい
※この映画を好意的に捉えている方は、この先の文章は不快に思われる可能性が高いため、閲覧しないことをおすすめします。
冒頭からヅラネタで笑いを取ろうとする作りに開始早々衝撃を受けた。
「令和になってまだこんな幼稚なシーン作って面白がっている人がいるんだ、OKOK」という気持ちになった。
あらすじには「コロナ禍や地方の過疎化、震災などの社会問題を盛り込みながら」なんて書いてあるが、ほとんどが表面的に触れて終わり。
深掘りされる様子は無し。
あくまで笑いと泣かせのネタにしているだけ。
登場人物の行動にリアルさを感じない。
舞台的な芝居。
テンションだけはやたらでかく、急に大声を出したりするのがウザい。
「zoomで上司の画面だけ固まったまま」と「喚き散らしながら、手元では魚を綺麗に三枚おろしにする井上真央」は笑ってしまったが、個人的に面白く感じたのはそれくらい。
世間の常識からはズレてる振る舞いを役者にわざわざさせて、それを嘲笑するような視線が好きになれなかった。
あと、ずっと気になったのは、とにかく主語がデカい。
「東京もんは〇〇」とか「東北の人間は〇〇」とか「被災者は〇〇」とか。
〇〇に入る言葉は偏見に満ちたステレオタイプ。
ヤフコメを見ているとこういう文言をよく目にするが、学術的根拠があるわけでもないのに、個人の経験に基づく主観をまるで不変の真理のように扱っててうんざり。
井上真央演じる百香がマスクを外す瞬間を見て、菅田将暉演じる晋作が百香に一目惚れする展開もなんだかなあ。
後半、純愛ドラマ風な空気になっていくが、晋作は見た目重視で人を好きになるようなので、たぶん他に美人がいたら簡単に浮気しそうに見えるのは自分だけ?
百香が晋作に惚れる理由も謎で、「大企業に勤めているから」としか思えなかった。
たしかに世の中には「男は収入、女は見た目」で恋人探しをしている人は多いとは思うが、そうではない人も世の中にはそれなりにいるはずなのに、この映画だと登場人物が多いわりにそういう人が一切出てこないのが逆に斬新。
村の男たちで結成の「祈る会」も、やっていることは独身女性の日常生活をみんなで監視して報告し合うというカルトな活動内容で、ギャグなんだろうけど個人的にはキモすぎて笑えないどころかドン引き。
でも作り手の皆さんはこういうのが面白いと思って作っているんでしょうね…頭が痛い。
晋作が船の上で中村雅俊演じる章男から聞かされる衝撃の真実も、冷静に考えると理屈おかしくね?と思った。
百香がもともと章男と一緒に暮らしていたというのなら、悲劇が起きた後もそのまま同居し続けるというのは理解できる。
しかし、どうやら悲劇が起こる前の二人は別々の場所で暮らしていたようなので、悲劇後に百香が新居に住み続けたくないという気持ちは分からなくもないが、じゃあ章男と一緒に暮らそうとはならないと思うのだが…
観客に「実はそうだったのか!!」という衝撃を与えたいためにわざわざこういう話にしたんだとは思うが、そのせいで常軌を逸した行動を取る不気味な人たちになってしまったと思う。
震災を、ドラマを盛り上げるための都合のよい舞台装置にしてる感じがとても嫌。
この映画は田舎暮らしをユートピアに描きすぎな気がした。
現実の「地方の過疎化」は深刻な社会問題だと思うが、そういう深刻さはこの映画からは伝わらなかった。
むしろ、この映画に感動した人は田舎暮らしに憧れそうで、そういう人が増えること自体は喜ばしいことではあるが、実際に田舎で生活してみたら「思ったのと違った」と簡単に挫折しそうな姿が容易に想像できる。
本気で「地方の過疎化」に向き合うつもりなら、観客が「たしかにこれなら過疎化が進むのも納得」と思える過酷な面も描くべき。
その上で観客に「それでも地方暮らしって素敵」と思わせる内容だったら素晴らしかったと思う。
まあ本気で向き合うつもりなんてないとは思うが…
中盤までは面白くはないが普通に鑑賞はできていて、「早く終わらないかな」ぐらいの気持ちだった。
まさかこの後にあんな地獄が待っていようとは、この時の自分は知る由もなかった…
終盤、この映画の登場人物のほとんどが集まって河川敷で鍋を囲む場面。
この場面、感動した人が多そう。
その気持ちはわからなくもない。
菅田将暉の演技に迫力があり、引き込まれて感情を揺さぶられそうにはなった。
でも、ここで晋作が熱弁していることって、要約すると「自分さえ良ければ他人なんてどうでもいい」ってことですよね?
その後の場面で章男が同じような台詞を言うことからも、これがこの映画で一番伝えたかったことなんだと思う。
はぁ?
なんという自己中心的考え。
でもたしかに世の中、そう考えの人が増えた気がする。
そりゃトランプが再選するわけだ。
この場面最悪なのは、大袈裟な感動的音楽が流れ始め、役者全員が気づいたら号泣していて、その顔を順番にカットを切り替えながら画面に次々と表示。
この、観客の感情を強制的にコントロールしようとする演出が本気でウザい。
良い映画って作り手の言いたいことはあえて台詞にしないで、観客に感じさせるものだと思うのだが、この映画は逆行していて攻めた作りに感服。
菅田将暉の「なんでこんな切ないんですかあ」みたいな舐めた口調も神経逆なで。
しかし極め付けはこの後。
菅田将暉の話を聞いていた竹原ピストルが突然、画面に顔アップで演説し始めるわけだが、これが超説教くさい。
この映画、悪ふざけばっかしてるくせに、急に上から目線の説教してくる場面がけっこう多い。
竹原ピストルの話が思っていた以上に長くて、「この校長先生のお話、いつ終わるんだよ」とイライラ。
ここで、目の前でクリリンが殺された時の悟空並みに怒り爆発。
大暴れしたい気持ちに駆られたが、前の席を蹴り飛ばしたら出禁確定なので、右の太ももを握り拳で叩き続けるという謎の行動に走ってしまった。
つまらないのは仕方ないにしても、高い金払ってなんでこんな不愉快な思いをしないといけないんだよ。
「空き家問題」とか「コロナ描写」とか「大企業」とか「池脇千鶴」とか、他にも書きたかったことはあったが疲れたので終わり。
この映画を観て、『ふてほど』(観てない)の脚本家の方の「ポリコレなんてクソ喰らえ」という気持ちは十分伝わりました。
公開日から5日目に観に行った時点で客席ガラガラだったことから、たぶんこの映画は早めにサンセットすると思うので、それだけが心の救い。
深刻な問題を取り上げながら、リアルさを感じないというお気持ちは解ります。百香さんについては、震災時は章男さんと暮らしていたと思いました。新しい家の方は未入居だとネットに書いていましたので。まだ夫の実家で暮らしていて、少しずつ準備をして春休み中に引っ越しを終わらせるはずだった、風邪で寝込んだから義理のお母さんが代わりに孫たちを学校に迎えに行って3人も夫も戻らなかったという事だと思いました。