「私たちの町が好き」サンセット・サンライズ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
私たちの町が好き
開幕、井上真央演じる百香がスマホでリノベーション済みの空き家を撮影。
そこに、子供二人の姿が…。
井上真央主演で『事故物件』の続編か…?
な~んてね。
ちなみにこのシーン、後から百香の背景などが分かるとしんみりさせられる。
百香は宮城県南三陸の(架空の)町、宇田濱の町役場職員。
町の空き家問題を担当。
南三陸の海が臨める一戸建てをリノベーションし、SNSにアップ。家賃は6万円。
ダメ元で試しに上げてみたのだが…、次から次へと希望者が。
その中で一人、居ても立ってもいられず、勝手にやって来ちゃった男。
東京の釣り好きなサラリーマン。浜崎伝…じゃなくて、西尾晋作。
2020年。東京ではコロナの感染が拡大化。
東京から思い切ってこの町に移住。仕事はリモートで。
もうそう決めて来たのだけれど、百香は渋い顔。
そもそも試しにアピールしてみただけで、本当に希望者がやって来るとは…。
しかも、東京の人。もしコロナを持っていて、まだ感染者が出てないこの町に感染者が出たら…。
ディスタンス!ディスタンス!
とにかく出歩かないで下さい。ここで自主隔離!2週間!
マジッスか~! イイんスか~!
という事で、2週間の自主隔離兼お試し移住の始まり~。
絶対に町の人との接触はダメ。
つまり、町の“人”はダメだけど、“魚”はいいんだよね…?
その発想も釣り好きもあの釣りバカサラリーマンと同等。お気楽な性格も。
自主隔離だってあくまで“自主”。この海を前にして釣りに行かないなんて。“不要不急”? いやいや、“必要超急”。
いざ、海へ。釣り糸を垂らせば、釣れる、釣れる。
市場に行けば、安い、安い。
おまけに百香の“父親”が漁師で、釣れた魚を持ってきてくれる。タダで。(百香は自主隔離中だから…と持ってきてくれるんだけど、困ったちゃんな晋作はこっそり釣りへ)
環境は最高、家賃も安い、毎日毎日海の美味しいものばかり。
リモートで同僚に自慢。
南三陸、ハンパねぇー!
お気楽サラリーマンの“シン・釣りバカ日誌”みたいな話だったら、あまりにもお気楽過ぎる。
そうじゃない事は作品のあちこちにちらほら。
宇田濱は海沿いののどかな町だが、寂れた雰囲気が…。
過敏なコロナ対策。
南三陸と言えば3・11で…。
おそらく百香が抱えている何かはこれに関係。
今晋作が住んでいる家。そこで見つけた煙草の吸殻に突然涙…。(晋作は煙草を吸わない)
これは何となく察し。
地方の過疎化問題、コロナ、3・11…。
そこに移住を絡ませ、ユーモアやチクッと風刺やシビアな問題を、笑わせ、考えさせ、ほっこりと。
クドカン巧みの脚本。
『あゝ、荒野』『前科者』とは違う岸善幸監督の温かな演出。こういう作品も撮れるのか…!
晋作は南三陸自体が魅力だが、私は勿論それも含め『あゝ、荒野』監督&主演コンビとクドカン脚本が魅力であった。
中小企業の平サラリーマンかと思いきや、晋作の勤める会社は超一流企業。晋作もエリート社員。
同僚とのリモートトーク中、突然社長が入室。晋作の移住生活が気に入り、あるプロジェクトを思い付く。
ズバリ、南三陸移住プロジェクト。
宇田濱町の空き家をリノベーション。SNSで希望者を募る。
晋作が“釣られた”方法を仕事に。
晋作は責任者。百香は宇田濱を代表して協力。
過疎化進む町にとっても、田舎暮らしに憧れる都会人にとっても、会社にとってもウィンウィンウィン。
良き事だらけと思ったら…。
リノベーションは思いの外費用が掛かる。それは会社が負担してくれる事になったが…。
空き家を3段階で査定。Aはすぐにでも住める。Bは少々リノベーションの必要あるが、住むには問題ナシ。Cはとても住める状態ではなく、リノベーション必至。
この査定について、家の権利者の間で異議や不満爆発。
特に晋作や百香を悩ます事になったのは、元居住者や遺族の思い。
晋作の隣の家に一人暮らしの老女。晋作とも交流深めていたが、急死。家は空き家に。
まず、この家を売りに出してみる。それには遺族の了承を得なければならない。コロナでなかなか来れなかった息子の一人が焼香しに。
当初は売りに出しても良かったが…、家の中を見ている内にこの家で過ごした思い出が甦る。
またこの家に住むつもりは無いが、母の命日には帰郷。その時、一日や二日でも…。母の家、ずっと住んでいた家、思い出が残る家。やはり、売りに出したくない。
気持ちは分かる。でもそれじゃあ、空き家問題は変わらず…。町もこのまま…。
いい解決策浮かばぬ百香に、晋作が驚きの提案。
家は売りに出してリノベーション。思い出のものは残したまま。普段は移住者が住む。命日だけ住まわせて貰う…。
そんな人のいい移住者が居るか…?
居る。ここに。晋作自身がそうなのだ。
募れば、必ず居る。
空き家の有効活用、人の思い、都会のアイデア。これらの理想形。
こういうのが上手く行ったら…。
しかし、なかなか上手くいかない。
そこに住む人と都会人のズレ。
地方の人は都会人に不信感。結局金目的。都会人は地方の人を騙そうとしている。見下している。
都会人は田舎暮らしに憧れる…なんて言いつつ、実際住むとすぐに音を上げる。コンビニが無いだけでNG。
ふらりと休暇に来たって、釣り餌のミミズにも触れない。上っ面だけの震災同情。
というか、都会人は東北6県をちゃんと言えるのか…?
そこに、コロナや震災だ。東京の人はコロナに感染している。被災者は助けて貰うのが当たり前と思っている。
風評や格差の偏見…。コロナや震災から何年か過ぎ、今はもう無いと思われているが、当時は酷かった。いや、ひょっとしたら今だって…。
私も東北人だから分かる。
私の周りで誰かが亡くなったとか、大きな被害を受けたとかは無いが、それでもあの日の事は生涯忘れないだろう。
ましてや大切な人や思い出を奪われた人なら…。
百香の過去。晋作が住んでいる家は元々百香が住んでいた。夫や子供たちと。
開幕スマホに映った子供二人は百香の脳裏に刻まれた思い出なのだろう。
あの津波に奪われた。一瞬にして。
残されたのは、今の人生に模索している百香と“父”。一緒に暮らしている父は実父じゃない。亡き夫の父。百香は嫁。
心に悲しい傷を負いながらも、ここで暮らしていかなければならない。
余所者は気楽にここに移住しようとするが、ここで暮らしていくとは、本当にどういう事か分かっているのか…?
晋作、百香、地元の面々、晋作の同僚らが集まった芋煮会。
何か起こりそうな事は必至。
ギスギス、ギスギス、ギスギス…。
誰も本音を言おうとしない。
そんな時、晋作が声高らかに。本音を。
プロジェクトとか、会社とか、空き家問題とか、コロナとか、震災とか、そんなのどーだっていい。
ただただ、この町が好き!
それから、百香さんの事も…。
突然何言い出す…!?
いや寧ろ、正論だ。
そこに住みたいという気持ちは、純粋にその町が好きだという事。
その理由は何だっていい。住みやすい、自分に合っている、環境がいい、人がいい、食べ物が旨い…。
好きな人が出来た。それだって立派な理由だ。
小難しい事や問題は本当にどーだっていいのだ。
この町が好き。ただ純粋にそんな気持ちじゃダメなのだろうか…?
私たちは言えるだろうか。自分が住んでいる町に。この町が好き、と。
“おだず”だけど、根はしっかりし、南三陸への“好き”は地元人以上。菅田将暉の好演。
魅力と悲しみを滲ませて。井上真央みたいな大家さんが居たら誰だって移住したくなる。
竹原ピストルや三宅健ら“モモちゃんの幸せを祈る会”の面々。最初は地方の面倒臭そうな男ども丸出しでお近づきにはなりたくなかったけど、知れば味が出てくる。
ピストル演じるケンの“もてハラ”。
美味しそうな南三陸料理がいっぱい。
食べた時の菅田将暉のリアクションは素だね。役得!
皆アンサンブル好演魅せるが、池脇千鶴のオバサン化がショック…。
南三陸のPR映画ではあるが、PR出来るものがあるから素敵。
どんな市町村だって必ずある。それを見つけられれば言えるだろう。
私たちは住んでいるこの町が好き。
そこでどんな辛い事や悲しい事あったって。
それと同じくらい、嬉しかった事や楽しかった事や幸せだった事も。
町に家に心に思い出が残り続ける。
それがまた前を向けさせてくれる。
陽は昇って沈む。沈んでまた昇る。
素敵な移住先ご案内と、温かな再起。
晋作と百香のラブストーリーとしても。
人や町が好きになる作品。
ほぼあらすじ!!ありがとうございます!あぁそうそう!って思い返して楽しめました!(^。^)
140分、クドカン&岸世界を
たっぷり堪能できて幸せです。
途中、だいぶ泣かされましたが、
ラストのアクロバティックな着地点には、えぇぇええぇ!!っと驚かされましたが。f^_^;
三宅健は本当に脇をやらせたら最高ですよね!メインでもばっちりですが、脇で出た時のキャラの立ち方がほんま最高です!にらみ目、最高!