「泣ける人には泣ける物足りない作品。」366日 輪舞曲さんの映画レビュー(感想・評価)
泣ける人には泣ける物足りない作品。
評判も右肩上がりで上映数も増えているとまでだったので、期待をしていたのだが、何だか物足りないように感じた。
例えるならば、全国どこにでもある揺れる吊り橋。
ちゃんと最後まで渡れるのに、あまりの揺れに怖気付いて落ちてしまうんじゃないかと思ってしまう。もう少し強度をあげて欲しい、そう感じるように。
一度見ただけなので、見落とした部分もあるかもしれないが、考えれば考えるほど設定が甘いように思ってしまった。設定が甘いと言うより、ここも物足りないと言い換えられる。
まず湊と香澄の関係。香澄は湊のことが好きなのだろうと感じはするが、“大学時代から”の肝心な大学時代の描写が少ないのでモヤっとした。これは陽葵と琥太朗の間にも言えることだと思う。いとこだと説明されれば納得はするが、にしても琥太朗の描写が少ないように感じた。
そして恐らくここで大きく分かれるのであろう病気の多さ。主人公2人が病弱ならばまだしも、病気で別れて病気で一生会えなくなる、などあまりにも多すぎる。泣ける人は泣けるのだろうが、私はそこまで深く自分を落とし込めなかった。
うるう年、これにも頭を悩ませた。単純に私の理解度が足りないだけだったと思うが、少し交わりすぎると感じた。
かといって、お金を払ってまで見る価値がなかったと言えば嘘だ。最終的にはしっかり涙を零した。
感情移入する人物でそれぞれ感動の種類が変わってくるのだと、私は思った。
映画館で見ていても、早い段階で鼻をすする音が聞こえたので、きっと彼女らは主人公に視点を置いてしまったのだろう。そんな中私は、琉晴に移入してしまった。
優しくて一途で度胸もあるが、それなりの黒い部分もちゃんとある、現実にはあまりいなさそうだが、キャラクターとして満点の人間。
中島さんが嘉陽田琉晴で良かったと心の底から思った。
それと、陽葵と琥太朗を演じた稲垣さんと齋藤さん、彼らも称賛されるべきだと思う。あの2時間の中で、2人の間柄が容易く理解出来た。欲を言うならば、あの2人のサイドストーリーが見たい。
高校時代の3人の描写が描かれるシーンたちは、個人的にとても好きだった。MDから始まる音楽好きならではの恋の行方、そして卒業式当日の3人の交わる矢印。見ていてとても良かったように思う。
美海の最期が描かれなかった部分も、面白いなと思った。あくまでその先は、我々の解釈に委ねられたのだと感じる。
沖縄の景色にも、いつか訪れてみたいと思わせるほど、とても魅了された。
主題歌もやはり素晴らしかった。恋をしてという作品が、湊が作ったものだったと映画を見た人にしか分からない設定を含まれていたのも面白かった。
総じて、刺さる人には刺さる。物足りないと感じた人にはそこまで、としっかり二極化される作品だと思った。
思う部分は節々あったものの、もう一度見たくなる、そんな不思議な映画だった。