「個人的には食い足りない作品でした‥」366日 komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
個人的には食い足りない作品でした‥
(完全ネタバレなので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
結論から言うと、今作の映画『366日』は、個人的には食い足りない作品に思われました。
理由は、展開やセリフがベタ過ぎや浅く感じたからです。
今作は、先輩である主人公・真喜屋湊(赤楚衛二さん)と2年後輩の玉城美海(上白石萌歌さん)とが病院でぶつかり、2人の荷物が混ざって2人の手が触れ合い、MDが間違って入れ替わるところから2人の関係が始まります。
その病院でのぶつかりと手の触れ合い、MDの曲が同じ、下駄箱でのそれぞれ曲を入れあったMDの交換、先輩の主人公・湊が東京に行くバスに乗る前に振り返って美海にキスなど、他作品でこれまで見たかのようなベタな展開が続きます。
いや仕方がない、青春恋愛映画でベタな進行は王道なんだ‥と1観客として思い直していると、美海が湊との海を見ながらの2人の会話で、<海の向こうには広い世界が広がっている>、との趣旨のセリフがありました。
しかしさすがにこのセリフは2人が大切にしている世界観(も十分深くは描かれてはいないのですが‥)に繋がっておらず使い古された表現で、正直に言うとこのセリフ選択はないのではとは思われました。
(セリフに関してはこれに限らずどのセリフもメタファーも具体性もほぼなく、浅さは否めなかったと思われます‥)
その後、主人公・湊は東京の大学に進学し、美海も湊の後を追って同じ東京の大学に進学し、湊は音楽制作の会社に就職します。
湊と美海は都内で共同生活をするのですが、たとえ2人で家賃を出し合ったとしても、かなり広さのある部屋に住むのは現実離れし過ぎだろう(一体この部屋の家賃はいくら?)と思われました。
いやいや部屋の広さは大目に見ようと思い直しても、主人公・湊が音楽制作の会社に就職した割には、世界の様々なあるいは特定のジャンルの楽曲の話や部屋のCDレコードポスターなどの飾りの雰囲気からも音楽に関してこだわりの深さが伝わる事もありません。
美海が(氷河期ではなく、おそらくリーマンショックの時期での)就職難で通訳になる夢をあきらめようとしているのを、湊が責める場面があるのですが、美海がそれまで通訳になるために頑張っていた具体的な描写や通訳をしていた美海の母との会話や場面の描写もありません。
いやいやそれでも‥と観客側でエクスキューズを繰り返して観ているのも限界があろうと思われました。
主人公・湊は彼の母・真喜屋由紀子(石田ひかりさん)を(おそらく父も)病死で亡くしていて、自身も(急性白血病の)病気になりますがそれは理解できるとして、美海まで若くして死に至る病気にその後かかります。
そして主人公・湊は急性白血病を隠して美海と別れ、美海は自身の妊娠を隠して湊との別れを受け入れます。
(湊は3年の入院の後に急性白血病を完全寛容しますが、治療に関しての具体的な描写も一切ありません。)
もちろんそれぞれの強引さや浅さの設定は1つや2つであれば映画の飛躍として許容範囲には思われますが、さすがに映画全体にそれが並べば、1観客としてはちょっと容認できないな、とは僭越思われました。
おそらく今作の物語は、初めに印象的な場面を思いつき、そこから逆算して作られたのではないかと、思われました。
つまりそれぞれの登場人物が時の積み重なりによって必然的にそうなったと思もえる、リアリティある物語展開になっていないと思われたのです。
ここ最近でも映画『矢野くんの普通の日々』や『なのに、千輝くんが甘すぎる。』といった深みとそれぞれの登場人物の必然を描いた優れた秀作を生み出して来た、新城毅彦 監督は今作でどうしちゃったんだろう‥とは僭越、思われました。
ただ調べると今作の原作・脚本の福田果歩さんは今作がデビュー作で、新城毅彦 監督は福田果歩さんの脚本を(いくらでも映画的に切り刻むことが出来たのに)尊重したから今回の結果になったのでは?と僭越想像しました。
また、今作は、それぞれの登場人物の関係性を深く描くことを辞めた代わりに、主人公・湊と美海との純化した世界を逆に描くことが出来たとも言えます。
新城毅彦 監督は映画としての必然性のリアリティ深さある物語性より、福田果歩さん脚本の純化された2人の関係性を大切にしたのでは?と、思われました。
ただ、映画としては、リアリティある必然の人物描写と、純化した関係描写は、両立は可能だと思われ、脚本家としては今後の課題ではと、1観客としては僭越思われました。
以上のように、個人的には今作は食い足りない作品になりましたが、主人公・湊を演じた赤楚衛二さんや美海を演じた上白石萌歌さんは良さや素晴らしさがあり、嘉陽田琉晴を演じた中島裕翔さんには大変感情移入もあり、他の人が評価するこの映画の良さも一方では僭越感じ取ることが出来ました。
同じことが気になった人がいてよかった(笑)
・都内?なのに、広すぎる部屋
(アーティストとして成功した後であれば違和感ないけど)
・2009年は氷河期じゃなくて、リーマンショック後ですよね...
(就職しづらかった点では同じかもですが... )
あと、ちょっと「病気」が舞台設定にされすぎてる印象は否めなかったなぁと。途中オフィスで封筒が届くシーンも、なんとなくすぐピーンと来てしまったし... 。
とはいえ、中盤以降の「人のやさしさ」を体現したシーンとか、涙なしでは見られませんでしたね... 。いい作品でした。