「タイトル」最後の乗客 なつ F列さんの映画レビュー(感想・評価)
タイトル
夜に少し時間があったので何か観ようとサブスク漁る。
55分ミステリ!これならさっくり観れそう。
基本、あらすじなのは見ないのでミステリという前置きだけ。
タイトルが細い線で出てくる。
なんだか小説を読み始めるような感覚。そして海の波。小さな波、茶色い波、そして一際大きな波が押し寄せる。
それから10年後…あ!あの話が題材だ!
あるタクシー運転手「浜町」に女子大生くらいの女が出るらしい。
そんな話を笑い飛ばして、終電に乗り遅れた人もいるだろうから。と男は車を走らせる。
黒帽子とマスクの女を拾ってしまい、これは〜と思っていたらまた子連れの女が必死の顔で被さるように止めてくる。
そのはずみで黒帽子の女が娘のミズキと分かる。
飛び込んできた女性は小さな子供を連れてやはり「浜町」へ。
何故か親子を訝しむミズキ。
何故か止まる車、捕まらない他の車、誰も何も通らない1本道に佇んで会話が始まる。
ふと、小さな少女がいなくなり探す母親とミズキ。
母親は慰霊碑を見つけ、ミズキは過去のサプライズだった父への想いを込めた手紙を投函する。
「最後の乗客は誰ですか?」
東日本大震災で死んでしまったことを思い出す。
そこでミズキのターンとなる。
「私よりその親子の方が大事だったの?」
「急に1人にされて…」
きっと性に合わない夜の仕事をして、どんな思いでリスカをしたのか。あまり似合わない濃いメイク。
もちろん震災で亡くなった方々、その後の方々にはニュースを見ていて心が痛んだ。復興を願った。人の死というのは常に背中にくっついている。先にトラックで死亡したタケちゃんにもたくさん涙を流しやるせない思いをした人も多いのだろう。
人間は「自分が」「周りの人が」確実に死ぬという事を現実として受け入れるのが難しいと思う。
だから、死んでいても気づかなかったり故人を忘れられなかったりする。
その辺は宗教感などもあるので個人的な思いですが。
父を責めるミズキに共感できず少しモヤモヤした。
でも、そのモヤモヤの中にも大勢の方々が「驚異的な大災害」として多く亡くなり、その鎮魂の義が毎年行われて防災意識が強くなるという頻繁に告げられる周囲に敏感になるのかもしれない。それが忘れたくても周囲が忘れさせてくれないのだろう。大事な時に拗れて別れ、大事な時に突然失った唯一の肉親を奪った事実。
覚えている、忘れる、それらを心に落とし込み消化させて生きていく事が得意ではない人も多いのだろう。
がんばれがんばれ〜ミズキなら大丈夫!
笑顔でそう言う事しか父にはできない。何故ならこの世にはいないから。
「なら父ちゃんと一緒にくるか?」ドキッとした。
おいおい、それはダメだよ〜
しかし、ぼろぼろになった娘を守る義務がある。
笑いながら2人で歩く。
消える親子、消えるタケちゃん。
助手席には娘を乗せて父は走り始める。
楽しそうにおにぎりを食べる。このおにぎりがアルミホイルで包まれているのがたまらなく良い。
娘を乗せながら父はまだ連れて行けないと心で呟く。
父は最後の乗客である娘を再び明るい場所へと運んでいく。タクシーの目的地、娘の行きたい所へ運転手は送り届ける。
代わりに辛い思い出は全部持っていくから。
娘は浜辺で目を覚ます。穏やかな表情。背後は同じく穏やかな波。
想いを伝え、お守りも渡せ、おにぎりを食べ笑って語る。
生と死の狭間で親子の絆を取り戻せ、それは愛しい娘の新しい光のもと確かに連れていった父の愛。
エンドロールの写真が苦しい。
小さな子供とミズキの会話やタケちゃんとの会話など、拾い損ねたピースも多々あり55分と短さでも少し間延びした感もあったかな。