「いまだに特別視される違和感を持っているのは、そこにいた人だけではないと思う」最後の乗客 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
いまだに特別視される違和感を持っているのは、そこにいた人だけではないと思う
2024.10.22 アップリンク京都
2024年の日本映画(55分、G)
東日本大震災から10年後の宮城を舞台に、タクシー運転手と奇妙な乗客を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本は堀江貴
物語の舞台は、東北のとある町(ロケ地は宮城県宮城市)
タクシー運転手として生計を立てている遠藤(冨家ノリマサ)は、同僚の竹ちゃん(谷田真吾)から「ある乗客」についての噂話を聞かされた
それは「幽霊ではないか」というもので、遠藤はそんなものがいるはずもないと相手にしなかった
ある夜のこと、遠藤が街道を走っていると、目深に帽子を被り、大きなサングラスとマスクをした女性(岩田華怜)が手を挙げていた
彼女は「浜町まで」と言い、遠藤はこれが噂の女性だろうかと訝しがった
浜町に向けて発進しようと思った遠藤だったが、今度は無理やりタクシーを止める女(長尾純子)と遭遇する
女は娘・こころ(畠山心)と一緒に祖父(大日琳太郎)の家へと連れてほしいという
そして、その行き先は「謎の女性と同じ浜町」だったのである
映画は、震災の時にその場におらず、家族が犠牲になった人の視点で描かれていて、それがどちらなのか、というテイストで進んでいく
女が幽霊なのか、それとも?という感じだが、女が遠藤の娘・みずきであることがわかった段階で察する感じになっていた
55分の本編なので、あっち行ったりこっち行ったりとか、話がさらに深刻になるとか、回想シーンが登場しまくるということはない
母娘と遭遇した時点で、その場での会話劇に移行し、全てが完結してからその場所から離れられるという感じになっている
それが「意味のある場所」だとは思うものの、そこは察してね、という感じになっていた
驚いたのは竹ちゃんの予後で、震災と言っても色んな被害があったことが窺わせる
全てが津波に飲み込まれたというイメージを持ちがちだったが、もちろんそんなはずはないので、彼の理由が想起の中に入り込むことができたのは良かったことなのかな、と感じた
いずれにせよ、あまりネタバレは見ない方が良い作品で、ロケ地が現地なので「今」を垣間見ることができる作品だった
10年経っても何かあるごとに「忘れないでください」というメディアを見ていると、そこに心はあるのか?と思ってしまう
他の映画でも、震災の時期に起こったリアルを描くたびに配慮をしなければならないことの方が異常のように思える
そういったものが絡まない人も場所もたくさんあるし、当事者にも色んなケースがあるので、イメージ語りがレッテルになるのは良いことではない
そう言ったことを再認識する上で、本作には一見の価値があるのではないだろうか